これまでの「テクノロジー&トレンド」の連載で、電気事業者が紹介してきた、電力デジタル分野の新技術やDER(需要側資源)の活用拡大に対する戦略や対応は、目的や対応すべき分野・顧客層によって、おおむね5つに分けることができる。今回はこれらを概観しながら、まず第一の選択肢であり、現状最も実証取り組みが進んでいる新しいプラットフォーム、VPP(仮想発電所)構築のビジネス化ポテンシャルと、実ビジネス化の難しさ、そしてその克服への道筋について紹介したい。
 

デジタル技術や需要側資源活用への対応を考える

 
 電力デジタル新技術やDERの活用拡大といった動きに対して、電気事業者はどのような行動を取るべきだろうか。

 事業者は当然、事業機会の拡大、利益の拡大、顧客価値の創造といった前向きな中長期の経営動機と、自社の既存事業モデルへの脅威になるような新技術のインパクト把握、対応といった短期・中期の経営動機の両方を持っているので、それに基づいて対応すべき技術分野と目的意識を整理してみると、おおむね図1のような5つの対応選択肢にまとめることができる。これらはもちろん複数を選択することも可能だ。
テクノロジー&トレンド 西村 1回目 図1

 

新たなビジネス展開にはベンチャーなどとの関係づくりが重要

 
 今回は、まず(1)の次世代プラットフォームへの取り組みについて取り上げよう。代表的なものは、既にいくつかの電力会社が経済産業省・資源エネルギー庁主導のエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスフォーラム下で、VPPとして実証中。これはDERを集めて使い、電力システムの調整力を代替するというものだ。この他にも、太陽光発電(PV)の逆潮を集めて電気自動車(EV)への販売を含む多様な小売先や環境価値取引に活用するようなプラットフォームなど、様々なものが考えられる。

西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)
西村陽・巽直樹 編著『まるわかり電力デジタル革命キーワード250』(日本電気協会新聞部刊)

 こうした新しいプラットフォームに取り組むメリットは、プラットフォームへの参加者と様々な情報交流を行うことで、電力デジタル分野のベンチャー企業群や需要側機器の優れたリサーチと関係づくり、場合によってアライアンスが可能になることである。特に蓄電池やEVの作動データについて、電気事業者は未知の部分が多く、こうした関係づくりはデジタルビジネス展開全体のために重要である。

 逆に新プラットフォームに取り組むリスクとは、「ビジネスとしてはものにならないかもしれない」ということにほかならない。鍵を握っているのはコストと制度という2つの条件である。

 コストとはプラットフォーム自体の構築運営コストと参加資源のコストであり、現状のコストではとても実用に見合わない。増してブロックチェーンを活用するP2Pのような個人参加の新プラットフォームならば、ますます抜本的なコスト革新は必須となる。

 

需給調整市場の設計がVPPの利益性を決める

 
 もう一つの制度問題とは、VPPの利益性を決めるのは、主な稼得場所であり、2021年以降に発足予定の需給調整市場の設計である。図2は、現状で案として提示されている需給調整市場のメニュー案だが、現状、VPPプラットフォームは既存の揚水発電所に比べて低速の調整力に過ぎず、欧州などでは秒信号制御のメニューに蓄電池などが参入して活躍していることを思うと、VPP自身の革新、高速化によって、より大きなマネタイズの道を切り開かなければならないと言える。

テクノロジー&トレンド 西村 第2回 図2
 制度上の問題として、もう一点、家庭用の多くの機器をプラットフォームに載せる上での計量法の壁の問題があるが、それは次回以降にまた解説したい。

電気新聞2018年6月18日