地震による土砂崩れの影響で倒れた電柱(8日、北海道厚真町の桜丘地区)
地震による土砂崩れの影響で倒れた電柱(8日、北海道厚真町の桜丘地区)

 6日未明の北海道胆振東部地震で道内全エリアに及んだ大規模停電は、急ピッチで解消が進んできた。それを支える北海道電力などの電力関係者は、直前の台風21号への対応から休む間もなく、地震被害の復旧に従事。それは、いち早く現地へ応援に駆けつけた他地域の電力会社の関係者も同様だ。ただ、厚真町など震源に近い地域では、道路の隆起や余震が作業を阻む。7日取材した現場には厳しい状況にもひるまず、安定供給の使命を果たし続ける人々がいた。
 

台風対応で徹夜続きの直後に地震。過酷な状況にも使命感持ち

 

苫小牧支店では早朝から顧客への対応に追われていた
苫小牧支店では早朝から顧客への対応に追われていた(7日)

 
 今回の地震に先立つ4日に日本列島を直撃し、各地で甚大な被害を与えた台風21号。その暴威にさらされた北海道電力エリアの復旧作業も、繁忙を極めていた。「徹夜が2日続き、3日目に翌日のため(作業者を)家に帰したところだった」。北海道電力送配電カンパニー苫小牧支店の反田真嗣配電部長は、地震が発生した6日未明の状況をこう振り返る。

 結果として、すぐ支店の全員に招集がかかることになった。反田配電部長は、過酷な状況でも果敢に復旧作業へ取り組む仲間たちを頼りにする一方、「声掛けして休ませないと、がんばり過ぎてしまう」と心配する。完全な復旧までは長丁場となる可能性もあるだけに、先々のことも考えねばならない。

 苫小牧支店は、傘下のネットワークセンターの担当地域も含めると、揺れが激しく被害の大きかった地区を多く抱えている。設備被害で全号機の停止を余儀なくされた苫東厚真発電所も同じエリアにある。苫東厚真発電所の前から海側へ進むと、道路の一部が隆起して液状化のような痕跡も見られ、今回の地震の厳しさを物語っている。

 また、山間部では地震に伴う土砂崩れで120本にものぼる電柱が倒れて流失した上に、道路が寸断されてすぐには復旧へ向かえないような場所もある。自衛隊など関係機関の対応も見極めながら、作業を進めていくことになりそうだ。

 同支店の高田聡支店長は、立て続けの災害対応に「疲労感はあるが、一日も早い電力供給のために皆が使命感を持って取り組んでいる」と話す。

 その使命感は同社のみならず共有されている。苫小牧市の市街地から車で北東へ約1時間、厚真町の役場近く。北海電気工事の作業班が、折損した電柱の建て替え工事を進めていた。6日朝から深夜まで作業し2日目に入ったところだという。

 作業班の班長は、自分たちが現場入りした時点で「道路の隆起による通行止めなどの情報がなかった」と話す。通れる道を探して迂回(うかい)しながらたどり着くしかない。班員は全て周辺地域の在住者だが、土地勘があっても道のりは容易ではなかった。断続的に起こっていた余震の影響を問うと、「正直、気にしていられない」と苦笑する。
 

応急送電作業を控え北海道電力社員(右)と打ち合わせ中の東北電力関係者(7日、北海道厚真町)
応急送電作業を控え北海道電力社員(右)と打ち合わせ中の東北電力関係者(7日、北海道厚真町)

 

東北電力、恩返しの思いを胸に

 
 他電力からの応援部隊としていち早く駆けつけ、厚真町で活躍していたのが東北電力送配電カンパニーの秋田支社だ。青森を経由してフェリーで函館に入り、交代しながら夜通し車両を運転して、7日早朝に苫小牧へ着いた。すぐに北海道電力の指示をあおいで厚真町へ向かうという強行軍。高圧電源車を使い、避難所や高齢者福祉施設など3カ所での応急送電を担った。

 そのうち1カ所では3台の電源車を連結、ケーブルを配電線につなぎ込んで周辺にある複数の施設に電力供給を図った。電源の規模が大きくなるため、3台のバランスにも注意しながら、供給する施設を段階的に拡大していかねばならない。

 容易ではない作業だが、応援部隊を率いる秋田支社の山田博幸配電専任課長は「東日本大震災の時にも経験している」と、冷静な様子で作業を見守る。柱上の開閉器を操作する北海道電力の作業者とも息を合わせ、送電開始に向けたステップを着実に踏んでいく。

 7日午前は町内の通信状況が悪く、3カ所に分かれたチーム同士の連携が取りづらいという問題もあった。しかし、別の応急送電先である町立厚真中学校でも作業は順調に進んでいた。同中学校は土砂崩れで甚大な被害を受け、繰り返しテレビ中継された厚真町吉野地区に対する救助や物資輸送の拠点。約150人(6日夜時点)が身を寄せる避難所でもある。

 蓄電池で最低限の明かりは確保していたが、7日朝にはそれも尽きて心もとない状況となった。東北電力の応援部隊は北海道電力と連携し、同日正午頃には電源車の接続作業を完了。作業責任者を務めた秋田支社横手電力センターの佐藤綾一配電技術長は、「東日本大震災では北海道の方に多くの支援を頂いた。今回はその恩返しのつもりで作業した」と話す。

 電源車による応急送電の開始に伴い、厚真中では照明だけでなく、送風機なども稼働を再開した。この場所に避難していた70代の夫婦は、「昨夜は蒸し暑く寝苦しかったので、それが改善されてうれしい。電気の有り難さがよく分かった」と笑顔を見せた。

電気新聞2018年9月10日