ユーロスタットを訪ねた調査団(左側)は再エネの統計手法などについて聴き取った

◆環境熱=ヒートポンプが取り込む自然の熱

 脱炭素化の加速に向けて、ヒートポンプがくみ上げる再生可能エネルギー量を「見える化」する重要性が指摘されている。国内では、ヒートポンプが利用する大気熱、地中熱といった「環境熱」を再エネと定義するものの、総合エネルギー統計には計上されていない。電気事業連合会などの有志は、既に統計化を始めた欧州の状況を調査。5月下旬にまとめた報告書で、環境熱の統計化について「最終需要の適切な把握や一次エネルギー自給率向上のためにも重要」と強調した。(矢部八千穂)

 ◇電事連など調査団

 調査団には電事連のほか、電力中央研究所、ヒートポンプ・蓄熱センター、東京電力ホールディングスの有志が参加。4月に欧州連合(EU)統計局ユーロスタット(ルクセンブルグ)、国際エネルギー機関(IEA)本部(パリ)などを訪れ、調査した内容を報告書にまとめた。

 ヒートポンプは大気や地中、水などの自然界に存在する環境熱を取り込み、冷暖房や給湯に利用する。機器の稼働に投入するエネルギーを大幅に上回る熱エネルギーを得られるため、省エネ性に優れる。

 環境熱は自然界に無尽蔵に存在する。日本では2009年制定のエネルギー供給構造高度化法で再エネに定義されたが、統計化には至っていない。そのため、国内で稼働するヒートポンプ機器のエアコンやエコキュートなどが利用した膨大な環境熱は、統計上「存在しない」のが現状だ。

 ◇効果的施策後押し

 一方、EUは09年に再エネの導入目標を設定する「再生可能エネルギー指令」で環境熱を再エネと位置付け、定量化も進めている。19年からはエネルギー統計への記載を始め、一次エネルギー供給や最終エネルギー消費などに計上。エネルギー自給率にも含めており、20年の統計では環境熱が域内一次エネルギー生産量の2.3%を占めた。

 同じように日本でも環境熱を統計に組み入れれば、エネルギー利用の実態を正確に把握することが可能になり、政府や事業者はより効果的、効率的に施策を展開できる。

 例えば、既存住宅のリフォームを推進する政策を行うケース。リフォーム後にエネルギー使用量が減ったとして、断熱改修が効いたのか、ヒートポンプ機器が貢献したのか、統計からは適切な判断が難しい。

 ヒートポンプ・蓄熱センターの推計によると、ヒートポンプが暖房・給湯に用いた再エネ量を考慮した場合、20年度のエネルギー自給率は11.2%から4.5ポイント向上し、15.7%まで高まるという。

 再エネ活用機器としてのヒートポンプの導入効果が「見える化」されれば、化石燃料を使うボイラーなどから転換する大きな動機付けになるはずだ。ヒートポンプ利用の拡大は脱炭素化の取り組みを加速させ、一次エネルギー自給率の向上やエネルギー安全保障の強化にもつながると期待される。

 ◇脱露の柱位置付け

 欧州ではこうしたヒートポンプの特性を評価し、エネルギーの脱ロシア化を図るための柱として明確に位置付けている。22年に示したロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」で、ヒートポンプ機器の設置率を現状から倍に増やす方針を決定。3月に合意した30年の再エネ比率目標42.5%においても、ヒートポンプが利用する環境熱を含めるとした。(4面に続く)

電気新聞2023年7月12日