電力業界向けのGEデジタル・ソリューションは大きく3つ、機器の信頼性と可用性向上およびメンテナンス戦略の最適化を実現するアセット最適化ソリューション、プラント全体の効率改善と生産性向上を実現するオペレーション最適化ソリューション、複数の発電設備をフリートとして管理、市場機会に合わせてポートフォリオを最適化して収益を最大化するビジネス最適化ソリューションで構成されている。本稿ではビジネス最適化ソリューションについて紹介する。
 

ビジネスモデルの転換が求められる発電事業

 
 2020年に向けて複数の電力新市場の開設が予定されている。電力業界におけるさらなる競争促進および30年のエネルギーミックス目標達成(再生可能エネルギー比率22~24%)に寄与するものだ。この流れにおいて発電事業者には長期電力販売契約をベースに安定的に収益を確保するビジネスモデルから、複数市場を通じて収益を最大化するビジネスモデルへと変化を遂げることが求められる。

 この変化を実現するには新たな取り組みが必要となる。発電計画への市場戦略の反映は大きな課題だ。現在の発電計画は「安定的に安価に」電力を供給することを前提に作成されている。需要に対する電力の安定供給およびメリットオーダーによるコスト最小化は実現できている一方、市場を通じた販売機会の拡大は十分に考慮されていない。市場を通じて収益を最大化するには市場機会を考慮した発電計画の策定および複数市場商品に対する同時最適化の機能が必須となる。これらを提供するのがビジネス最適化ソリューションである。

 

燃料価格、需要予測、系統制約など、様々な要素をモデル化

 

図_ビジネス最適化_4c

 ビジネス最適化ソリューションの最大の特徴は広範なモデリングにある。石炭火力、LNG火力、水力、揚水等の発電設備、購入、輸送、貯蔵を含む燃料管理、需要予測、価格予測、契約情報や系統制約など発電事業に関わる様々な要素をモデル化、MILP(混合整数線形計画法)やモンテカルロ法、確率論的解析など複数の分析手法を用いて最適化計算、シミュレーション、事後解析等を実施することができる。発電事業者は当翌日から週間、月間、年間に至る発電計画の作成、複数市場(時間前、スポット、調整力等)を前提とした入札計画の検討、計画外停止や電力/燃料価格の変動による影響度確認、長期相対契約や新規設備投資の妥当性判断等を実施することができる。
 

最適化ソリューションがデータ取得、計画作成、精算まで業務自動化

 
 ビジネス最適化ソリューションの導入は外部システムからのデータ取得、発電計画/入札計画の作成、入札、精算といった一連の業務の自動化という効果をもたらす。入札担当者は膨大な定型作業に時間を割くことなく、入札戦略の検討や約定後の事後解析、市場価格急騰や計画外停止等の突発事象への対応など、より付加価値が高く緊急性を要する業務に注力することができる。

図_特徴_4c
 ビジネス最適化ソリューションの出力結果はアセット最適化ソリューションやオペレーション最適化ソリューションとも連携される。市場データを活用することによりメンテナンスによる機会損失の最小化や市場価格に合わせた火力機の出力変更等を実現することができる。

 発電事業者は電力を安定的に安価に提供することを前提に発電設備を運営してきた。こうした社会的使命が変わることはないが、一方で発電事業者は「市場を通じた収益最大化」という新たな課題に取り組まなければならない。デジタル技術の導入は変革を進める上で有効な手段となるであろう。

【用語解説】
◆MILP(混合整数線形計画法)
決定変数の一部が整数でなければならないという制約を持つ線形計画問題。ユニット・コミットメントを含む大規模な最適化問題に利用される。商用ソルバーの改良により大規模計算に対する計算時間の課題も解消されている。

◆確率論的解析
確率変数を含む分析手法。電力市場価格のボラティリティー(価格変動幅)や需要の不確実性、発電設備の計画外停止等のシミュレーションに用いられる。中期計画や長期計画におけるポートフォリオのリスク評価に利用される。

電気新聞2018年3月26日