風力、太陽光を中心とした再生可能エネルギーの増加、人口減少や省エネルギー化による電力需要の伸び悩みと競争激化のために電力事業者を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、既存設備信頼性の維持・向上と、メンテナンス費用削減を両立させるための戦略的メンテナンスの導入は喫緊の課題である。本稿では、現在グローバルで広がっているトレンドとして、従来のメンテナンス計画最適化をIoT技術の活用によってさらに効果的に実施するためのGEの取り組みについて紹介する。
図1_デジタルソリューション_4c
 

時間管理と状態管理を組み合わせ、信頼性維持と費用削減を両立

 
 戦略的メンテナンスとは従来の運転時間を基準としたメンテナンスと異なり、各機器の重要度や、メンテナンス費用、機会損失費用を考慮しつつ、さらに機器の運転状態を勘案したコンディションベースのメンテナンスを組み合わせる事により、プラント全体の信頼性を維持しつつメンテナンス費用を削減することを目標としている。ある機器の特定の故障モードはその運転時間とは必ずしも明確な因果関係が存在しない場合がある事が分かっており、その機器のメンテナンスが運転時間をベースに計画、実行されている場合には、戦略的メンテナンスによる最適化の余地があると言える。

 準備段階として、まず対象機器で発生し得る故障モード(リスク)とその影響度合い並びにその故障モードが発生する原因を、FMEA等の分析手法を用いて特定することから始まる。次に、それらの原因と原因を除去するためのメンテナンス項目をひも付ける事で、リスクと各メンテナンス項目の因果関係を明確にする。リスクの影響度評価はプラント運転への影響度のみならず、安全、環境に加えてファイナンス面での影響度も考慮されることになる。

 運用段階では、各機器のメンテナンス項目によって低減されるリスク項目とその低減幅を元にリスクを許容値以内に納めるための最適なメンテナンス計画を立案するが、この際には過去の補修履歴や警報履歴、巡視点検記録といった現在の運転状態等の動的な要素をも複合的に考慮する必要があり、扱うデータ量は膨大である。
 
図2_APM_4c
 

データ連携の支援ツールで、情報を集約

 
 リスク分析を元にしたメンテナンス手法の研究と取り組み自体は以前からなされているが、戦略的メンテナンスの効果的な実行には、IoTツールの活用が重要な要素である。メンテナンス計画立案に当たって、考慮すべきデータ群が異なるデータベースに保存されていると、データの収集、整理に多大な労力を費やす事になり、本来最も重要なデータ収集後の計画立案作業に十分な時間を確保する事が出来ず、また時間的制約のために対象を重要機器に絞って実行せざるを得ないといった事態が発生してしまう。このため、EAMなど各情報源とのデータ連携によって情報を集中的に参照可能な計画立案者向けの支援ツールの整備は効果的である。

 GEではIoTを活用した戦略的メンテナンスのためのソリューションの開発が既に完了しており、提供が進んでいる。このソリューションではデータ集約化、可視化に加えてリスク重要度を事業者の統一基準で数値化して標準化するとともに、複数シナリオのメンテナンス計画をシミュレーションする事が可能である。

 日本においても今後電力産業へのIoT導入が本格化していく中で、戦略的メンテナンス支援ツールの開発、導入が今後ますます活発化していくものと思われる。

【用語解説】
FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)
機器あるいはシステムの潜在的な故障の分析手法

EAM(Enterprise Asset Management、設備資産管理)
保有する設備機器の全情報を一元管理するためのシステム

電気新聞2018年3月19日