広島市内に設置された壁面緑化システム
広島市内に設置された壁面緑化システム

 中国電力エネルギア総合研究所(平野正樹所長)が開発した新型の壁面緑化システムの実証実験が3月で終了した。既存のシステムに比べ内部構造がシンプルな上、植物の維持管理の手間を最小限に抑えた点が大きな特徴だ。機器に致命的な欠陥はなく、年間を通じ安定して植物を育成できることを確認した。今年度中にも商品化を予定しており、エネルギア総合研究所は「技術の優位性は非常に高い」と自信をのぞかせる。

 壁面緑化システムは建物の壁面に沿った植物の成長を促進する。植物は壁面に当たる太陽熱を吸収し、温度上昇を抑制する。特に夏場は冷房効率を高めるほか、省エネルギーにもつながり、ヒートアイランド現象の緩和にも貢献できる。

 ただ既存のシステムでは培養液タンクと栽培槽を配管でつなぐ必要があり、構造が複雑になりがちだった。

 新型の緑化システムでは栽培槽と培養液のタンクを一体化。上下二層構造にすることで、配管構成を簡素化した。さらに循環式の養液栽培方式を採用し、培養液は配管から自動で散布する。このため水やりや肥料散布など、植物栽培で必要となる作業を大幅に省略した。

 余った培養液は栽培槽の底面を通ってタンクにたまり、再利用が可能。排水はほとんど出ず、衛生面でも優れた構造となっている。

 エネルギア総合研究所では2011年に開発に着手した。13年には大成建設との共同研究を始め、16年10月から広島市内で実証実験を開始。月に1回のペースでシステムの動作や植生状況を観察した。

 当初は50%程度だった植物の被覆率は1年ほどで100%近くまで上がり、その後も植生を維持した。システム自体にも異常は見られず、エネルギア総合研究所は「順調に動作し、問題ない」との評価を出した。

 緑化の効果としては、夏季の晴天時に壁面の表面温度が平均で1度前後下がることを確認。養液や水道使用量も抑制し、運用コストを約15%削減した。

 エネルギア総合研究所では今年度中の商品化を予定している。今後も観察を継続し、電気や水の使用量などのデータを調査。気象や虫の影響なども確かめる。

 さらに市場への周知にも乗り出す。この一環として国土交通省が行う暑熱対策の実証調査に応募した。7月からの選考を通過すれば、20年の東京五輪・パラリンピックで活用されるという。

 壁面緑化以外の用途も検討している。その一つがストレス軽減など、職場環境の改善にも役立つ室内緑化だ。

 システムの培養槽に土の代わりに有機成分を含まない軽石を使っている。室内での栽培でネックだったカビや細菌が発生しないため、応用先として期待が高まっている。

 昨年から社内の一部でパーテーションとして使用し、効果を確認中だ。

 あらゆる観点で植物の有用性が見直されている昨今、緑化システムの活躍の場はまだまだ広がりそうだ。

電気新聞2018年5月14日