札幌市で15、16日に開かれたG7(先進7カ国)気候・エネルギー・環境相会合の共同声明では、原子力利用の記述を前進させた。前回会合でも「低炭素なベースロード電源」と評価していたが、次世代炉の開発に向けて強靭なサプライチェーンを構築するほか、原子力技術と人材を強化する方向性も記載。原子力産業の活性化を強く打ち出した形だ。焦点となっていた石炭火力の停止年限については記述がなかった一方で、天然ガスも含めて化石燃料の利用を段階的に廃止する方針を盛り込んだ。

エネルギー安定供給と気候変動の両立を話し合った閣僚会合(4月15日、札幌市内)

 共同声明における原子力に関する項目は、他の項目と異なり「私たちは」ではなく、「原子力の使用を選択した国々は」から始まっている。15日に原子力利用をやめたドイツを意識した記述だが、内容に関しては前回会合から大幅に充実している。

 具体的には原子力を「化石燃料への依存を減らし、気候危機に対処する電源」と提示。サプライチェーンの強靱化は核燃料を含めると示し、「ロシアの民生用原子力とその関連製品への依存を減少させるための措置を支援する」とも記載した。

 16日、閉幕後の会見で西村康稔経済産業相は、「安全を大前提に既設炉の稼働、革新炉の開発に力を入れる」と説明。経産省幹部も声明の書きぶりについて「原子力への意欲的な姿勢を示せた」と満足する。

 原子力関連では、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉についても記載。廃炉の着実な進展と日本の透明性のある姿勢を「歓迎する」とまとめた。
 

天然ガス利用「段階的廃止」

 
 化石燃料の扱いも焦点となっていた。これまでのG7会合では、非効率な石炭火力の段階的廃止の方針を打ち出していたが、天然ガスの利用も「段階的廃止」の対象に加わった。段階的廃止は2050年カーボンニュートラルの達成のためで、前述の経産省幹部は「脱炭素化を進める上で自明の流れ」と冷静に受け止める。

 30年以降の温室効果ガス排出削減目標値の設定についても議論した。気温上昇を「1.5度以下」にするパリ協定の努力目標に整合する数値を設定することで合意。途上国にも1.5度以下を呼び掛ける方針も確認した。

 方向性や目標を打ち出す一方で、具体的な実行策の決定でも進展があった。排出削減量を国家間で取引する「6条実施パートナーシップ」の事務局を日本に設立すると明記。国際的な炭素取引市場の創設に向けた準備が整いつつある。

 製品、サービスの温室効果ガス排出削減効果を示す「削減貢献量」も議題に取り上げた。結果として、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)も含めて初めて削減貢献量の概念が国際会議における声明に盛り込まれた。

 環境省幹部は、「目標設定も重要だが、脱炭素化に向けた具体的な実行策を盛り込むことが会合で“勝ち”といえる条件だった」と語る。議長国の役割は今年12月までのため、札幌で決めた実行策を年末までに進展させることが重要となる。この幹部は「決めただけで終わらないよう、着実に進めて議題を次回開催国のイタリアに引き渡したい」と意気込む。
 
識者の見方…東京大学公共政策大学院・有馬純特任教授

「現実的」な議論

 
 欧米がグリーン化に突き進む中で、日本は現状のエネルギー情勢を踏まえて現実的な議論に持ち込んだ。前回と同様に石炭火力は「段階的廃止」としたが、停止年限を盛り込まなかった。今回の声明に不満はない。エネルギー安全保障の観点からガス部門の投資を「適切」とした点も評価できる。

 ただ「1.5度目標」をG7がコミットしたが、G20(20カ国・地域)とのかい離を生むことになる。おそらく新興国は資金支援策を求めるだろう。

 電気新聞2023年4月18日