IoTセンサーへのワイヤレス給電技術の開発が進んでいる。実用化されれば、工場内などに多数のセンサーを設置してデータを収集し、よりきめ細かいエネルギーマネジメントが可能になる。科学技術振興機構が3月下旬に都内で開催した研究会では、パナソニックや東芝などの産学連携グループが成果を報告。人や無線LANとの共存という課題を克服できる見通しを示した。

 内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期(2018~22年度)の研究開発の一環。産学7者が連携して要素技術の開発やシステム構築、認証試験などに取り組んできた。22年度はその最終年度に当たる。

 センサーへのワイヤレス給電技術には2つの方式がある。工場内に広く分布するアンテナから、消費電力の小さいセンサーに同時に給電する「分散アンテナによる強調ビーム制御方式」と、カメラを搭載するなど消費電力の大きい高性能センサーに給電する「高度ビームフォーミング方式」。どちらの方式も、人や物、無線LANなどが混在する場所で、いかに安心・安全に無線電力を供給できるかが課題だ。

 分散アンテナ強調ビーム制御方式は、パナソニックが開発を担当。小型・低出力のアンテナを天井などに多数配置し、一つの大きなアンテナのように制御する。研究会では、屋内にムラなく給電できることや人体への影響が少ないことを報告した。

 高度ビームフォーミング方式は、920メガヘルツ帯と5.7ギガヘルツ帯に分かれる。前者を担当するオムロンは、工場の組み立てラインで3つのセンサーに給電しながら、データを取得する実証を行った。人や他の無線が混在する環境で、給電可能な時間率50%以上を達成。タグを持つ人への電波放射を基準値以下に抑制した。

 後者を開発する東芝は、人の呼吸や胎動を高精度で検出し、回避できる技術を導入。2メートル離れた無線カメラに給電し、人や他の無線があっても給電時間率65%以上を実現できることを発表した。

 IoTセンサーへのワイヤレス給電技術が実用化されれば、エネルギーマネジメントの高度化などによって年間約1500万トンの二酸化炭素(CO2)削減につながると期待される。開発を担当する産学連携グループは来年度以降、SIP第2期の成果を踏まえて製品開発を進めていく方針だ。

電気新聞2023年4月6日