潜在量まだ少なく
デマンドレスポンス(DR)の機能が進化している。エナジープールジャパン(東京都港区、市村健社長)は、需要の上げ下げを一日3回繰り返す運用を今冬初めて実施した。工場の生産ラインを制御して高速調整力を生み出す実証にも取り組む。ただ、こうした高度な運用が可能なリソースはまだほんの一握りだ。より多くのDRを市場に取り込むためのルール設計が進むが、市村社長は「期待と現実にギャップがある」とくぎを刺す。(小林健次)
需要側エネルギーリソース(DSR)を需給調整に役立てるDRは、需給最適化や化石燃料の使用抑制、電気代削減などの観点から注目されている。
DRの高機能化も進んだ。エナジープールは今冬、蓄熱槽を活用して朝・昼・夕の一日3回発動した。事前に予測した需要や太陽光発電量、卸市場価格に基づき、需給が逼迫する朝夕に需要を下げ、太陽光発電量がピークを迎える昼間に需要を上げる試みだ。再生可能エネルギーの余剰電力を吸収する役割は今後ますます求められる。
高速調整力を供出する実証は、大口需要家などと連携して3サイトで展開中だ。山梨県の米倉山電力貯蔵技術研究サイト(甲府市)とトクヤマの徳山製造所(山口県周南市)では電解槽、日本エア・リキードグループの川崎オキシトン川崎工場(川崎市)ではガス産業用のコンプレッサーを活用。1次、2次調整力を供出できるか検証している。
高機能化の鍵を握るのは、デジタル化だ。エナジープールは、設備をきめ細かく監視・制御するデジタル機器を大口需要家の生産ラインに設置。そのデータを分析して設備の特性を把握し、DRの潜在能力を引き出している。こうした取り組みには顧客との信頼関係が必要で、一朝一夕で築けるものではない。
だが、DRへの期待は膨らむ一方。容量市場のDR募集枠に相当する発動指令電源の調達量上限は、毎年引き上げられた。2026年度向けのオークションでは想定最大電力(H3)の5%に当たる約800万キロワットに拡大した。このうち4%分を今年度のメインオークション、残り1%分を追加オークションで募集する。
過度な期待によって現実との乖離(かいり)は大きくなった。市村社長は現時点のDRポテンシャルは800万キロワットの半分にも満たないと指摘する。大手電力がかつて大口需要家と結んでいた需給調整契約は、契約容量ベースで約900万キロワット(16年度実績)。これを「High 4 of 5」と呼ばれる現在の基準に換算すると約360万キロワットになるという。
今年度実施した容量市場のメインオークションでは、636万キロワットのDR募集枠に対して約600万キロワットが応札した。ただ、期待通りの供給力を提供できるかどうかは、実行性テストで確認するまで分からない。
市村社長は、期待と現実の差を埋めるには「着実にステップを踏む必要がある」と強調する。まずは需給調整契約を結んでいた需要家のデジタル化を進める。次に需要バランシンググループ(BG)内の経済DRで実績を積み、実行性が確保できることを確認した上で、一般送配電事業者に調整力を提供する。さらに2050年のカーボンニュートラルを見据えて電化を加速する中でデジタル機器を増やしていくという流れだ。
安定供給の一翼を担えるDR事業者を育成するには、現実を踏まえた制度設計が求められる。
電気新聞2023年3月24日