スペシャル福島

 東日本大震災から7年あまり。東京電力福島第一原子力発電所事故の風評被害にさらされた福島県の食材の魅力や品質を再評価する動きが広がっている。様々な苦労を乗り越えて安全で品質の高い食材をつくり続けてきた生産者、そうした食材の魅力にほれ込んで提供するユーザーの地道な取り組みが背景にある。2月に新組織を立ち上げ、風評払拭対策を強化する東京電力ホールディングス(HD)の取り組みも合わせて、福島県産食材の魅力を紹介する。

◇ピアシス新橋店/県産日本酒100銘柄、地元食材と味わう

 全国新酒鑑評会での金賞受賞銘柄数が5年連続で日本一になるなど、多数の人気銘柄を抱えることで知られる福島県の日本酒。JR新橋駅から徒歩2分の場所に、その福島産の日本酒と福島産食材を使った料理を楽しめる飲食店「ピアシス新橋店」がある。

福島産の日本酒と食材でおもてなしするピアシス新橋店の田中店長(左)と濱田調理長
福島産の日本酒と食材でおもてなしするピアシス新橋店の田中店長(左)と濱田調理長

 同店が福島を前面に押し出すようになったのは、東日本大震災後の春から店長を務める田中葉子さんの行動力によるものだ。田中さんは店長就任早々、福島を応援したいという思いから、福島県広野町の酒店からの日本酒の仕入れを通じた福島応援を始めた。
 それだけでなく、県内に60近くある酒蔵のうち30カ所以上に足を運んで購入の交渉を行った。「当時、風評で傷ついた酒蔵はたくさんあった。日本酒を買いたいという思いを伝えるには会いに行くしかなかった」
 その後、田中さんが始めた福島応援の取り組みは、ピアシスを展開する無洲(東京都港区)の浅野正義社長にも伝わり、浅野社長自らが力を入れるところとなった。
 浅野社長は、福島の酒販店を通じて福島県内の酒蔵から日本酒を購入。無洲系列の飲食店で提供するようにした。県内の酒蔵だけでなく、酒販店も応援することで福島を元気にする狙いだ。
 ピアシス新橋店が扱う福島産の日本酒も約100銘柄にまで増えた。福島の希少銘柄がそろう店舗としても知られるようになり、田中さんは福島県が公認する「福島酒アンバサダー」にも任命されている。
 予約が絶えない同店の人気の理由は、福島の会津地鶏や馬刺し、魚、野菜、米、果物を使った料理を楽しめることにもある。
 同店で食材の調理を一手に担う濱田憲一調理長は「福島は風土豊かで食材にも恵まれている。旬の素材のおいしさを味わいに来てほしい」と話す。
 福島出身でない田中さんが「福島を応援したい」と始めた取り組みをここまで続けられる原動力とは。田中さんに尋ねると「福島のものがおいしいからですね。お客さまも喜んでくれていて、この店では風評を感じないんです」と明快な答えが返ってきた。

電気新聞2018年4月26日