災害時は自動走行ロボットが構内で車両を誘導することで、発電所員の負担を軽減する

 

災害時の拠点機能も

 
 九州電力は自社の火力発電所で、ローカル5G(第5世代移動通信方式)とドローン、自動走行ロボットなどを組み合わせたスマート保安の実装を進める。苓北発電所(熊本県苓北町、石炭、140万キロワット)をモデルとした実証で一定の成果を得たことから、技術面の改善を重ねた上で、同じ石炭火力の松浦発電所などへの横展開を目指す。まずは九州域内で知見を蓄積し、将来は他電力会社の設備にも幅広く展開したい考えだ。

 総務省の採択を受けて、九州電力を代表とする5社コンソーシアムが苓北発電所で2022年度に実施している実証の現場がこのほど公開された。

 実証では苓北発電所の入退場エリア周辺と、石炭船などを受け入れる港湾設備エリア周辺に大容量・高速通信を可能とするローカル5G環境を構築。入退場エリアでは発電所に出入りする車両のナンバープレートをAI(人工知能)カメラで自動認識し、入退管理する技術を検証し、天候などが変わってもナンバープレートを100%認識できることを確認した。

 港湾エリアではドローンによる巡視点検や、高精細カメラによる監視を行った。高精細カメラは湾岸部に配備し、不審船や、釣り人などの不審者がいないかを常時監視し、発電所内の監視室に映像を送る。目視では難しかった不審船の船舶名称や、不審者の顔まで詳細に捉えることができるという。

 一連の開発成果を、地域のレジリエンス(強靱性)強化に生かす施策も検討している。発電所周辺地域が災害などで孤立した場合、港湾設備を支援物資受け入れ拠点として活用する構想だ。

 支援物資輸送車両などを載せた大型船を受け入れるケースを想定し、平時は発電所の巡視点検に使う自動走行ロボットを車両誘導に使う技術検証を行った。車両誘導に不慣れな発電所員に代わり、ロボットを活用することで円滑な支援物資受け入れにつなげる狙いだ。

 AIカメラによる車両の入退管理も、平時だけでなく、被災時を想定した検証を進めてきた。

 火力発電所の港湾設備は大型の燃料船を受け入れるために水深が深く、大量の物資や車両を積んだ船舶にも対応できるケースが多い。ただ、ローカル5Gと組み合わせて、火力発電所の港湾を地域の災害対策に生かす試みは珍しく、安定供給以外の側面でも発電所の価値を高める試みとして注目を集めそうだ。

電気新聞2023年3月17日