コロナ禍きっかけに再開

 
 2018年度の惨敗で、すっかり戦意を喪失した。気が向いたら再開すれば良いと考え、参考書はクローゼットの奥深くに封印。19年度は勉強と無縁の生活を送った。

 この封印を解くタイミングは思いのほか早く訪れる。きっかけは20年初頭から猛威を振るい始めた新型コロナウイルス。外出もままならなくなり、特に休日は膨大な余暇が生まれた。この時間を利用して勉強をやり直そうと考え、20年4月に再開した。

 といっても勉強方法は以前と変わらず、参考書を読んで過去問をこなすだけ。一度は目を通しただけあって読むスピードは上がったが、相変わらず参考書の説明に納得感はない。
 

まず「法規」、知識問題で合格

 
 20年度試験も手応えはなかったが、法規のみ合格した。問題を見返しても未だに勝因が分からない。計算問題には手が付かなかったので、知識問題で点を稼いだのだろう。

 ともあれ22年度までに3科目受かれば電験3種の資格が手に入ることになった。具体的な目標が定まったのはありがたく、あと2年は勉強を続けようと覚悟を決めた。

 だが、従来のやり方には限界を感じていた。予備校に通わないとなると、参考書を変えるくらいしか方法はない。かといって他の参考書が特に分かりやすいわけではない。先が見えず、悶々(もんもん)としたまま21年の春を迎える。
 

YouTube動画の力借りて

 
 試験まで残り半年となる中、意外なところで突破口を見つけた。それは動画投稿サイトのYouTube。「電験3種」と入れて検索したところ、電験で問われる知識や過去問を解説する動画がたくさん出てきた。文字だけではイメージがつかめなかった静電気や交流、回転機の仕組みなどが映像で説明され、実に分かりやすい。

 これを活用しない手はないだろう。思い切って勉強の主軸を動画に切り替えた。複数のチャンネルに絞って毎日1時間ほど視聴し、一通り見終える頃には、参考書や過去問の解説も腑に落ちるようになった。

 電験で問われる知識を理解し始めたところで、演習量を増やすことにした。過去問が最良の問題集であることは間違いないが、同じ問題は二度と出ない。そもそも4年目となると過去問の解き方や解答自体を覚えてしまっており、演習の効果が薄れてくる。

 そこで計算問題集1冊と予想問題集2冊を新たに購入。とにかく問題をこなした。感覚的にはプラス10年分といったところだ。初見の問題への対応力を磨く上では、かなり役立ったと思う。

 こうして臨んだ21年度試験。解けるかは別として、問題が何を問うているのかは理解できる。計算問題に手を付けられたところには大きな成長を感じた。
 

「封筒」が届けば合格

 
 結果は電力と機械に合格。ヘビーな2科目が片付いたのは素直にうれしかった。

 試験終了後は年末まで休養し、22年の年明けに勉強を開始した。

 残すは理論のみ。ここまで来たら何としても22年度中に合格する。そう心に誓った。

 新たな参考書は購入せず、手持ち分を完璧に理解することを目指した。5年目にして依然あやふやだったキルヒホッフの法則やデブナンの定理なども映像の力を借りて頭に入れた。

 迎えた8月の22年度上期試験。素直な問題が多かったらしく、どうしても解けなかったのは4問程度。手応えはあった。

 結果が届くのは10月だが、9月には電気試験技術者センター(ECEE)の番号検索サービスで合否は分かる。自分は検索する勇気がなく、おとなしく郵送を待つことにした。

 郵送の場合、合格すれば封筒、不合格ならハガキが届く。

電験3種の合格通知。ここまで来るのに5年かかった

 10月上旬、ECEEから届いた郵便物は…封筒。ポストの中を見た瞬間、一気に緊張が解け、体中から力が抜けていくのが分かった。

 中に入っていたのは証明書の申請書一式だ。早速手数料を振り込み、申請書を送付。1カ月ほど経って証書が到着し、足掛け5年にわたる挑戦が終了した。
 

文系も特別不利なく

 
 さて実際に受験してみた感想だが、文系が特別不利になるとは感じなかった。

 懸念の一つだった数学に関していえば3種で必要な知識は四則演算や根号(√)の計算、高校で習うベクトル、三角関数、複素数といったところだ。

 高校範囲の存在に尻込みする文系出身者も多いだろうが、各単元の初歩を理解していれば何とか対応できる。少なくとも問題を解くうちに嫌でも覚える、というのが正直な印象だった。同じことは理科の知識についてもいえる。

 むしろ普段縁がない法則や現象のイメージを正確につかめるかが勝負。これは電験の勉強の本質に他ならないが、意外と見落とされがちだ。
 

カギは演習量

 
 この苦労さえ乗り越えれば当落線上には乗る。あとは演習量が物を言うだろう。電気工学などを専攻した人でもない限り、スタートラインに大差はないと思われる。

 ただ電験合格は決してゴールではない。合格者は主任技術者を名乗る権利を得られるに過ぎない。さらに高度な知識とスキルを身につけ、電力の安定供給の要となることが期待されている。

 主任技術者になる予定がない自分には、申し訳ないが直接期待に添うことは難しい。既に大半の知識は抜け落ちており、この記事を書くこと自体が、かなりはばかられる。

 一方で電験を持つ記者は、それなりに希少な存在だと自負している。取得の過程で得た知識や経験を今後の記者稼業にどう生かし、電気に関わる業界に還元できるのか。これらを今後の長期的なテーマとして自身に課したい。

 合格に満足せず、この先も日々精進しなければならないと強く感じている。(宮川健)

 

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 本連載へのご意見・ご感想をお待ちしております。宮川記者同様、専門外の立場から電験3種などの国家資格に挑戦中・取得済みの方の体験談やオリジナルの勉強法などをご紹介ください。本企画を再開した際の参考にさせて頂きます。宛先はEメール sitemaster@denkishimbun.comまで。

 
(この記事は本紙連載「電験3種・独学で攻略」の「下」です。「上」はこちら
電気新聞2023年2月15日