前回は省エネルギー型の水質浄化をはじめ、私たち海幸ゆきのやの屋内型エビ生産システムの設備に導入している技術を示した。様々なアイデアを取り入れて工夫を重ねた、エビを育成するためのハードウエア的な技術だ。今回は、これらハードウエアを用いて、実際にエビを育てるソフトウエア的な技術について紹介する。海幸ゆきのやでは、たくさんの高品質なエビを効率的に育成するため、IoTや人工知能(AI)も導入している。
エビは成長の過程で脱皮した直後、生物として弱く、水質や飼育密度による影響を受けやすくなる。魚に比べて繊細で、育成がとても難しい品種であるといえる。そのため、エビ養殖をする際には育成する水槽内の水質の状態や給餌量、エビの状態など多様なデータを取得し、現状を正確に把握することが重要である。
データの取得方法は様々だ。手持ちの溶存酸素計による水槽内の酸素濃度の測定をはじめ、採水した水を吸光度計で分析して測定するアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素など、項目は多岐にわたる=表。これらのデータを日々取得するとともに、的確に分析することで、エビの安定生産を実現している。
異常を24時間体制で自動検知
そのほかにも海幸ゆきのやでは、育成中のリスクを低減させるための仕組みを活用。24時間体制で異常を検知できる自動警報装置を設置しているほか、水温と溶存酸素の定期モニタリングシステムを導入している。仮に従業員が不在の夜間にトラブルが発生した場合でも、育成管理者の携帯電話にすぐに自動で連絡が来る仕組みも導入した。これらにより突発的なものも含めて、育成管理リスクへの早期対応を可能にしている。
エビ養殖では、適切な育成や水質維持の観点から、給餌量の管理が必要になる。また、エビは過密にすると共食いしてしまうため、育成環境の密度が高くなりすぎないよう管理しなければならない。こうした観点から、水槽の中の正確なエビの尾数の把握がとても重要だ。
そのためには、養殖スタート時のエビの尾数を正確に数える必要がある。しかし、稚エビの重量は1尾0.002グラムと非常に小さい。一方、海幸ゆきのやで育成するエビの尾数は120万尾である。従来は少量のサンプルを手作業でカウントして、おおよその尾数をつかんでいたが、全体に対するサンプル数が少ないこともあって正確な数値を把握するのは難しかった。
そこで、私たちは関西電力グループでDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みを強力に支援する専門機能子会社K4 Digitalと協力。共同で先端技術を導入し課題解決に取り組んだ。
まず稚エビを水槽に放流する前に小さなバケツに移して写真を撮影。AIを活用したディープラーニングによる画像解析を行い、エビの正確な尾数を算出できるようにした。解析では、エビの色が薄く認識できない問題や、影をエビとカウントしてしまう問題などをトライ&ラーンを繰り返して解決することで、実用化に成功した。最初の尾数が正確に分かれば、日々の水槽底部清掃で回収する死エビや、収穫した尾数を引き算すれば、常に正確な尾数を把握できる。適切な給餌・密度管理を実現でき、高品質なエビの効率的な育成につなげている。
施設の作業効率化も推進
さて、海幸ゆきのやの設備では、水量750トンのメイン水槽が6基同時に運転している。
そのため、エビの育成管理だけでなく、社員やパート従業員の作業の効率化も課題である。水槽ごとに人手がより多く必要になるタイミングを平準化できれば、人員配置を最適化できるはずだ。
今後は、エビの尾数把握にK4 Digitalのディープラーニング技術を取り入れて改善させたように、従業員の作業効率化の面でもIoTやAIなどの先端技術を取り入れていくことを計画している。
電気新聞2022年10月24日