日本へ毎年20万トン以上輸入されるエビは、東南アジア諸国における養殖場で海洋汚染といった深刻な環境問題を引き起こした。また、2012年に中国・ベトナムで発生した新たな疾病の蔓延により、生産が不安定な産業となりつつある。私たちIMTエンジニアリングは産官コンソーシアムで、環境への影響を最小化し、安全・安心で持続可能な実用レベルの養殖エビ生産技術の開発を進めてきた。ここでは関西電力と共同で取り組む海幸ゆきのやに導入した技術を紹介する。
水産物の陸上養殖では、水を水平に循環するのが一般的。この方式では、ポンプの電気使用量が大きく、日本のように電気料金が高い国では事業として成り立たない。そこで海幸ゆきのやの養殖設備では、新たに開発した省エネルギーかつ低揚程大流量のポンプと、高低差による波の力を組み合わせたシステムを構築。従来の10分の1の電気エネルギーで、水の循環と撹拌を行っている。
まず育成水の一部をポンプで育成水槽から1メートルの高さにある造波槽に蓄える。続いて造波槽のゲートを1分間に1回開き、育成水槽に開放することにより波が発生し、水の攪拌(かくはん)を行い、水質を均質な状態にしている。
造波ゲートの開閉間隔や水位を変更すれば、育成水槽内の水の流速を変化させることが可能。これによりエビの成長(運動能力)に合わせた流速という育成環境の最適化を実現する。また、エビは水流に向かって泳ぎ回る性質があるため、この設備では立体的な回遊を行う。垂直方向の飼育密度が増加し、生産量をアップする効果もある。
エビの共食い防止効果も
このほかにも、水質浄化には力を入れている。水中を漂う有機物は120マイクロメートルの通水メッシュを備えたスクリーンフィルターでこし取り、外部に除去している。また、育成水槽内に人工海草を設置。それ自体が生物ろ過媒体として機能し、浮遊物を吸着し、水の浄化を行っている。人工海草は脱皮直後の運動能力が低下したエビの隠れ家としても機能。共食いを防止し、生存率を大幅に向上できる。このほか微生物による硝化作用を活発に行うため、ポリエチレン製の浮遊亘体をブロアーによりろ過槽内に浮遊。水との接触時間を多くすることにより、効果的な水の浄化を実現している。
水槽の形状も工夫している。底部を頂点とする逆三角形型にして、残餌やフンなど固形沈殿物を底に設置したピットに集積。スクレーパーでかき集め、固形物のまま外部にエアーリフトで排出している。これにより水槽内の水質を悪化させる、ヘドロなどの発生を防止。また餌の食べ残し量を正確に把握できるため給餌量を適正化できる。共食いによる死エビ数も正確に把握でき、水質悪化やストレス、給餌量不足といった育成環境悪化について、早めに兆候がつかめる。
育成手順をマニュアル化
育成水の酸素濃度管理も徹底。バナメイエビは、エビの中でも最もよく泳ぐといわれており、必要酸素量がクルマエビの約3倍におよぶ。従来のエビ養殖場で行われている水車などによる酸素供給方式では、酸素不足が発生してしまう。このため、圧力をかけて通常の3倍程度の酸素が溶け込んだ過飽和酸素水を作り、水槽内に注入して均一な高濃度酸素環境を実現している。
こうした効率的な水質管理に加え、屋内型エビ生産システムには大きなメリットがある。海上で行われているいけす養殖では、台風や赤潮、水温低下など、多様な要因が魚の生存や成長に影響を与えるため育成の難易度が高い。一方、屋内型システムでは、25年間の研究成果、実証運転実績に基づき、育成手順のマニュアル化が可能。経験がないスタッフでも、マニュアルに基づき比較的簡単に育成管理ができる。海幸ゆきのやでも成果をあげるものと期待している。
電気新聞2022年10月17日