価格は市場連動→高騰で想定上振れ

 
 FIT(固定価格買取制度)電源が生み出す電気の調達費用が、小売事業者の経営に想定外の重荷となっている。実質的な調達費用に当たる回避可能費用は、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場連動で価格が決まる。慢性的な供給力不足などに起因してスポット価格が急騰したことにより、この費用が各社の想定より上振れし、収支を圧迫する構図だ。燃料費高騰で電気料金の上昇圧力が高まる中、大手電力も対応に苦慮している。

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 FIT電源が発電した電気の受け手は2種類ある。小売電気事業者と、大手電力から分社化された送配電事業者だ。FIT制度が導入された2012年度から16年度までに認定を受けた案件は小売事業者、17年度以降は送配電事業者が買い取り義務を負う。

 小売事業者が買い取り義務者だった12~16年度は、高額の売電価格を背景にFIT電源の代表格である太陽光が急拡大した時期に当たる。小売事業者は引き取った電気を自社の供給力として活用できる。

 目下問題になっているのは、その電気の調達費用だ。現行制度は買い取り義務者がFIT電気を引き取る際、引き取らなかった場合にかかる電気の発電・調達にかかる費用(回避可能費用)を実質負担する仕組みとなっている。

 回避可能費用は16年度の小売り全面自由化を契機に大手電力の全電源可変費や火力可変費に基づき算定する従来方式から、原則として市場価格連動とする方針が決定。小売事業者の買い取り分は21年度から全量が市場価格連動に移行した。
 

2倍以上で推移

 
 折あしく、この見直しとスポット市場の価格高騰が重なった。電力・ガス取引監視等委員会によると、全量移行初年度にあたる21年度のシステムプライスの平均値は13.5円で前年度より2円以上高い。22年度(8月30日まで)は21.2円。8~10円程度で推移した15~19年度の2倍以上で推移している。

 これに伴い、小売事業者によるFIT電気の調達価格も高騰している。具体的な影響はエリアごとの市場価格や調達量によって異なるものの、収支悪化の一因となっている。

 一方、送配電事業者は状況が異なる。市場価格連動という基本的な仕組みは小売事業者と同じだが、原則として引き取ったFIT電気を全てスポット市場に売電するため、市場高騰が収支に影響することはない。

 制度上は小売事業者も、引き取った太陽光の電気を市場に売電できる。発電事業者の合意を得て、FIT電気の受け手を小売から送配電に移行することも認められている。

 小売事業者側のリスク低減の観点で有効な手だてにみえるが、ことはそう単純ではない。ある大手電力関係者は「送配電買い取りへの移行は発電事業者に実質的なメリットがなく、手続きの煩雑さから拒まれるケースが多い」と打ち明ける。

 別の関係者は「全面自由化後、火力などを削ってきた結果、小売の供給力が『FIT電気ありき』の構成となっている。送配電買い取りに移しても代替の供給力がなく、結局市場から調達しなければならない」と話す。
 

隠れた悪化要因

 
 回避可能費用の高騰は、国民が将来負担するFIT賦課金の上げ幅を抑える面もあるが、短期的には小売事業者の収支を悪化させる負の影響が際立つ。大手電力は燃料費高騰などを背景に、法人などを対象とした自由料金見直しに動いているが、“隠れた収支悪化要因”になっているFIT電気の調達費用変動リスクをどう扱うかも、今後の論点になりそうだ。

電気新聞2022年9月9日