熊田 亜紀子教授
熊田 亜紀子教授

 「電力ネットワークは100年に1度の大転換期。研究テーマとして選ぶなら、今が一番楽しい時期だと思う」。東京大学大学院の熊田亜紀子教授はこう話す。自身は社会に必要とされる学問を志し、高電圧と放電現象の研究の道を選んだ。

 高電圧を扱う国内大学が減少する一方、研究の重要性は増している。大きなきっかけは再生可能エネルギーの急増だ。ウインドファームなどで発電した電力を遠く離れた需要地まで運ぶ、高圧直流送電網の開発が国際的に進められている。
 

再エネ急増で、高圧直流送電が世界の潮流

 
 一昔前は想像できなかったが「今や直流は世界の潮流。この流れは止まらない」。ただ、高圧直流送電は絶縁や遮断に課題があり、洗練されたシステムとはいえない。機構の解明や機器開発への応用など、研究ニーズはこれからも増える。

 研究に必要な専門分野は幅広い。電力技術だけではなく、放電計測に光技術、シミュレーションに情報技術を活用するほか、材料選びに化学の知見まで動員する。学生にとっては広範囲にわたって基礎を学べ、社会に出て応用が利くというのがアピールポイントだ。

 少子化が進む中、優秀な学生をどう確保するのかが大学の悩み。特に理系の学問は、とっつきにくい印象を与えがちだ。工学系の女子学生の割合となると「徐々に増えてはきたが、まだ消費税率といい勝負」という。
 

料理と工学はよく似ている

 
 大学の男女共同参画委員会に所属し、女子学生の理系進学を勧める機会もある。鍵を握るのは保護者の理解。「(同じ工学系出身で)宇宙飛行士の山崎直子さんのように光輝く方もいれば、地道にコツコツと、楽しく仕事を続けている人もいる。10年後の姿を想像できるよう、多くのロールモデルを示すことが大事だ」と話す。

 少しでも工学を身近に感じてもらいたいと、こんなエピソードを披露することもある。

 2人の子供を持ち、帰宅後30分で夕食を作らなければ家庭が回らない。帰りの道すがら、自分の作業効率や冷蔵庫の中身などを考えて頭の中で工程表を練り、それに従って作業を進めていく。実は、料理と工学は非常によく似ているのだ。