JRR-3の原子炉建屋。モリブデン99の国産化に向けた研究を加速させる

 原子炉で発生する中性子を活用し、様々な研究が行われている日本原子力研究開発機構の研究用原子炉「JRR―3」(茨城県東海村)。定期検査で停止した2010年11月以来となる運転再開を昨年2月に果たし、同年11月まで4サイクルの運転をトラブルなく完遂した。22年度は7サイクルの運転を予定。医療用RI(ラジオアイソトープ)の一種、モリブデン99の国産化に向けた研究も加速させる。(山内 翼)


 JRR―3は日本初の国産研究炉。出力は2万キロワットで、中性子ビームによる構造物内部の観察や原子力燃料・材料の照射試験、RIの製造などが行われてきた。

 新規制基準の施行後、原子力機構は18年11月にJRR―3の原子炉設置変更許可を取得。各種実験設備の調整運転を経て同年7月に供用運転を再開した。長期停止する前の10年度は年間約2万人が中性子ビームを利用していた。21年度は約1万2千人の利用があったという。

 JRR―3を利用した21年度の研究成果の一例に、放射性廃棄物のガラス固化体の構造観察がある。ガラス固化体の製作技術向上を目的とした研究で、添加剤のリチウム酸化物がガラス構造の乱れを抑える様子を確認した。

 原子力機構は21年度、JRR―3で医療用RIの製造も再開した。がん治療用の金グレイン(金198)は302個、イリジウム線源は国内供給量の全数となる41個を製造。22年度は金グレインを700個、イリジウム線源を50個作る予定としている。

 一方で、臓器の状態を検査する画像診断に使われるテクネチウム99は海外からの輸入に頼ったまま。原子力委員会が近く取りまとめる医療用RIの国産化に向けたアクションプランではテクネチウム99や、その原料となるモリブデン99について国内需要の約3割を製造すると掲げられる見通しだ。

 原子力機構はアクションプランを踏まえ、JRR―3を用いたモリブデン99の照射製造技術の早期確立を目指す。既に天然のモリブデン98に中性子を照射する試験を実施しており、22年度は最適な照射条件の選定やモリブデン99の製造量を把握していく。

 原子力機構の遠藤章・原子力科学研究所長はモリブデン99の製造について「医薬品の原料として使えるスペックと価格が今後の課題。照射試験を通じて徐々に課題を解決していきたい」と抱負を述べた。

電気新聞2022年5月31日