供給者変更の周知足りず

 
 電力調達価格の高騰を背景に、新電力の小売事業撤退や供給停止が相次ぐ中、新たな供給先への切り替えを巡り需要家に混乱や動揺が出ている。中には、供給停止に伴う契約承継先となる小売事業者の供給条件が割高になるにもかかわらず、十分な周知をしていないようなケースもある。
 

混乱…承継先、割高な燃調価格 通知書に誤解を招く表現

 
 熊本電力(熊本市、浮谷一弘代表取締役)は、一般送配電事業者から託送供給を解除されたため顧客への電力供給を停止した。燃料価格の高騰により卸電力市場価格の高値が続いていることから電力調達コストがかさみ、託送料金の支払いが滞った。同社はシグナストラスト(東京都目黒区、塚本州代表取締役)の小売電気サービス「ヱビス電力」への契約承継を行っているが、その場合の低圧4月分の燃料費調整額単価は各供給エリアごとに3~13倍に跳ね上がるため、注意が必要だ。

 熊本電力は沖縄を除く全国の家庭や法人に電力を供給してきたが、3月22日に一般送配電事業者各社から託送供給を解除された。電気の契約切り替え支援を手掛ける「新電力比較サイト」が顧客として受け取った3月14日付の通知書によると、同月20日までにヱビス電力への契約承継を明示的に拒否しなかった需要家は、ヱビス電力への契約承継処理が行われるという。ヱビス電力では熊本電力の元顧客向けに「くま電プラン」が新設され、現在契約と同一の従量料金単価で電力供給を続けられるとしている。

 ただ、同プランの燃料費調整額は、旧一般電気事業者のものと連動しておらず、独自の基準を採用している。熊本電力の4月の燃料費調整額単価(低圧)は1.17~3.05円だが、ヱビス電力に切り替えた場合は7.67~19.10円と高額となる。東京電力エナジーパートナー(EP)の2.27円(東京、従量制)や、九州電力の1.55円(従量制)と比べても大幅に高い。一般の需要家が見落としやすい燃料費調整額を変更しておきながら、通知書の中で「経済的なご負担が変わるという事はございません」と記載するのは誤解を招く。

 熊本電力は契約承継をすると周知しているが、燃料費調整額を含め契約そのものの内容が変わってしまっては、本来の意味で契約承継とは呼べない。従量料金が変わらなくても燃料費調整額が変われば、実質的に契約切り替えだ。通知書が送られてきてから契約承継の回答期限が1週間もなく、自動的に契約継承処理された顧客もいた可能性がある。需要家保護の観点から熊本電力の対応が適切であったか検証が求められる。

 シグナストラストは家庭やオフィス・店舗向けに低圧の電気を供給している。昨年12月の販売電力量は33万7900キロワット時で、同月の新電力の販売量ランキングでは総合209位(低圧129位)につけている。熊本電力とシグナストラストに契約承継後の燃料費調整額について問い合わせたところ、期限までに両社からの回答はなかった。(旭 泰世)
 

注意…電事法上の問題も

 
 国民生活センターによると、電力会社の契約承継先の燃料費調整額が高く、契約承継を承諾するかどうかの回答期日が短かったため、承継を拒否できなかったという問い合わせが、3月中に数件寄せられているという。国民生活センターは電力会社の社名を明かせないとしているが、熊本電力の顧客からの相談とみられる。

 その一方で、承継時の対応について法曹関係者は「新たな契約先となる新電力が顧客に、燃調の仕組みを含めた契約条件を説明せず、適切な記載がなされた書面を交付していないとすれば、電気事業法上、問題になる可能性がある」との見方を示す。
 

動揺…電気、すぐには止まらず エルピオ撤退で相談殺到

 
 3月25日にエルピオ(千葉県市川市、牛尾健社長)が電力小売サービス撤退を表明したことを受け、家庭用の需要家に動揺が広がっている。4月末で電気が止まるとの誤解や手続きに関する戸惑いも多いようだ。電力切り替えサービスを提供するENECHANGE(エネチェンジ、東京都千代田区、城口洋平代表取締役CEO)は「電気はすぐ止まるわけではない。まず落ち着いて、それから次の電力会社を選んで」と呼び掛けている。

 エルピオは25日にウェブサイトでサービス撤退を公表。ただ、週明けに同社からの通知で事態を知った契約者も多く、エネチェンジが開設した相談窓口にも電話が殺到した。同社の曽我野達也取締役は「(事業者の)サイトもダウンしていて情報を得られず、パニックに陥った人もいるようだ」と話す。

 エルピオは4月末に事業を停止するが、切り替えが間に合わなくてもすぐに電気は止まらない。ただ「無契約」の状態になり、一般送配電事業者から契約を促す通知が届く。それでも手続きを行わず電気を使い続ければ、いずれは電気が止まる。

 新たな小売事業者に切り替える際、無契約だった期間までさかのぼって契約も可能。これは電力の小売営業に関する指針(小売営業ガイドライン)にも記載された対応だ。

 言い換えれば、少なくとも4月中は切り替え先を選ぶ余裕がある。曽我野氏は「格安が売りだったエルピオより安いプランはさすがに難しいが、料金を重視するか、事業者の資本力やサポート体制に注目するといった視点もある」と指摘する。

 エネチェンジの推計ではエルピオの契約者は14万件と、2017年に撤退した大東エナジーの26万件に次ぐ規模。こうした状況では電話回線のパンクやウェブサイトのダウン、SNS(会員制交流サイト)からの不確かな情報の拡散もあり、焦らず冷静に対応することが一層重要となる。(新田 剛大)

電気新聞2022年4月7日