核融合の実用化に向けて日本国内でもスタートアップが起業し始めている。2019年に創業した京都フュージョニアリング(東京都千代田区、長尾昂社長)に続き、昨年はEX―Fusion(エクス・フュージョン、大阪市、松尾一輝代表取締役)と、Helical Fusion(ヘリカル・フュージョン、東京都千代田区、代表=宮澤順一氏、田口昂哉氏)の2社が起業。核融合の研究開発はこれまで国主導で進んできたが、民間主導での取り組みも加速しそうだ。(旭 泰世)

 核融合は主に日米露中韓印とEU(欧州連合)の7つの国・地域が共同で進める国際熱核融合実験炉「ITER」計画が研究開発の中心だった。ITERの建設はフランスで10年に始まり、25年に運転開始予定だが、国家間の役割分担の調整などで、スケジュールの遅延を繰り返してきた経緯がある。

 そこで民間主導で核融合の実用化を目指す核融合スタートアップが生まれている。国主導のプロジェクトは国の予算配分に影響を受けやすく、失敗も許容されにくいという側面があったが、スタートアップであれば自らの裁量でスピーディーに進められる。

 世界では核融合スタートアップの起業が相次ぐ。業界団体のフュージョン・インダストリー・アソシエーション(FIA)の会員企業は61社(3月8日時点)まで増えた。ビル・ゲイツ氏が出資する米コモンウェルス・フュージョン・システムズは約20億ドル、米グーグルが出資する米TAEテクノロジーズは約8億8千万ドル、ジェフ・ベゾス氏が出資する加ゼネラル・フュージョンは約3億ドルの資金調達に成功しており、資金面のサポートも手厚く受けている。

 一方、日本の核融合スタートアップ3社も、それぞれの方法で核融合の早期実用化に挑戦中だ。京都大学発スタートアップである京都フュージョニアリングは、核融合炉で発生した熱を取り出す技術を海外の研究機関に提供。英原子力公社からトリチウムエンジニアリング事業やプラズマ加熱装置を受注している。資金調達額は20億円で、さらなるグローバル展開を狙う。

 エクス・フュージョンは大阪大学レーザー科学研究所と光産業創成大学院大学の研究者が中心となって昨年7月に設立。強力なレーザーで燃料ペレットを圧縮加熱する「レーザー方式」で核融合の実用化を目指す。ITERで採用する「トカマク方式」と異なり、電力需要に合わせて発電量を調整できるのが強みだ。資金調達額は1億円に上る。松尾代表取締役は「レーザー核融合で得られる知見は、エネルギー分野はもちろん、金属表面処理技術の『レーザーピーニング』や核融合プラズマを推進力とする『レーザー核融合ロケット』でも活用できる。様々な産業分野で貢献したい」と強調する。

 昨年10月に設立したヘリカル・フュージョンは、核融合科学研究所の研究者らが創業メンバーに名を連ねた。超電導ヘリカルコイルによる磁場でプラズマ状態になった燃料を閉じ込め、1億度まで加熱し続ける「ヘリカル方式」を採用。トカマク方式よりも複雑な形状のコイルを使用するため制作の難易度が高いものの、プラズマの安定性に優れ、長時間運転に向いているとされる。同社はまだ資金調達を行っていない。核融合分野は開発期間が長く、運用期間が短いベンチャーキャピタルとの相性はあまり良くない。田口代表は「特に地球温暖化防止に向けて長くお付き合いできる個人や企業に投資してもらえたらうれしい」と話す。

 核融合は50年までに実用化に向けた実証を行うことを目標に研究開発が進んできたが、民間の核融合スタートアップにリスクマネーを投じることで開発のスピードアップが期待されている。核融合は「太陽を地球につくる夢のエネルギー」と称されてきたが、夢を現実のものとするため、スタートアップの挑戦が始まっている。


◆メモ

 核融合=核融合とは水素のような軽い原子核同士が衝突・合体する反応。水素の同位体である重水素と三重水素が核融合を起こすと、ヘリウム、中性子のほか、非常に大きなエネルギーが発生する。

 重水素と三重水素でできた燃料1グラムから発生するエネルギーは、石油8トンの燃焼エネルギーに匹敵。核融合発電は電力供給が止まると自然に停止するため、原子力発電より安全性に優れているとされている。

電気新聞2022年3月11日