台湾で原子力建設再開を巡る住民投票へ向け、各陣営のアピールが本格化してきた。住民投票は原子力推進NPOの求めに応じて12月に行われるもので、法的拘束力を持つ。建設再開が多数となれば蔡英文政権の掲げるエネルギー転換(脱原子力)政策は見直しを迫られる。今年2回にわたり大規模停電が発生したこともあり、世論調査の動向をみると賛成派の勢いが増しているようだ。

脱炭素に活用

 10月31日、NPOの気候先鋒者連盟(楊家法代表)の呼び掛けで片足立ちで脱炭素への原子力の活用を訴えるパフォーマンスが台湾各地で一斉に行われた。意味するところは「再生可能エネルギーだけの一本足では長続きしない」。原子力を脱炭素のもう一本の足としてしっかりと踏みしめ、脱炭素を実現しようという訴えだ。現地日刊紙が1面で報じるなど注目を集めた。

 こうした運動に関心が高まるのは、12月18日に全有権者対象の住民投票が行われるためだ。諮られる4議題のうち2つはエネルギー関係。1つは第四(龍門)原子力発電所(ABWR、135万キロワット×2基)の建設再開の是非。もう1つはLNG(液化天然ガス)基地建設が予定される桃園のサンゴ礁保護の是非だ。

 民間シンクタンクの台湾民意基金会が10月に実施した世論調査によると、原子力建設再開は賛成が46.7%、反対が41.7%だった。4月の調査では僅差とはいえ反対が上回っており、賛成派の勢いが増していることが見て取れる。もともと賛成派が多かったサンゴ礁保護も、5月の前回調査と比べ賛否の差が広がっている。

 こうした変化の背景には、政権のエネ政策に対する不信感があるとみられる。5月に起こった約400万戸の大停電は、供給力確保の重要性と脱炭素を再生可能エネだけに頼る政策の危うさを再認識させるに十分だった。蔡政権のエネ転換政策がこのまま継続すれば2025年に原子力は全廃、主要供給力となるLNG火力の電源比率は50%を超える。

 これ以上LNGに頼ることに経済性やエネルギーセキュリティーの懸念がある上に、地球環境保護を訴えながらサンゴ礁を犠牲に基地建設することに矛盾を感じる住民も少なくないという。結果、原子力活用とLNG依存抑制が世論の多数派となりつつある。

選択肢はない

 変化に対し、政権側は危機感を強める。現地報道によると、蔡総統は4日に行った演説で「50年カーボンニュートラル実現へ政策の選択肢に原子力建設再開はない」とあらためて強調。桃園のLNG基地には「需要地と電力生産地の偏りの解消や大気汚染問題の解決につながる」と理解を求めた。

 今月からテレビ討論会が始まったが、原子力建設再開、サンゴ礁保護の反対側代表は経済部(日本の経済産業省に相当)の次長、部長が務める重厚布陣を敷く。新型コロナウイルス抑え込みで政権への評価は回復傾向にあり、巻き返しの可能性もまだ十分あるといえそうだ。

電気新聞2021年11月15日