来年3月の韓国大統領選は、原子力・エネルギー政策を巡って正面対決となる構図が固まった。保守系最大野党・国民の力は5日、大統領候補に尹錫悦(ユン・ソンニョル)前検事総長を選出した。一方の与党・共に民主党は10月に李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事を選出している。両者は原子力推進、脱原子力の両極端の政策を打ち出しており、いずれが勝者となるかで今後の韓国のエネ政策は大きく左右される。

 「原子力は映画のように危険ではない」。予備選活動中、尹氏は現地メディアにこう話した。文在寅大統領は選挙戦中に原子力事故を描いたパニック映画「パンドラ」を観てエネルギー転換(脱原子力)実行を決意したといわれる。そのことを意識したとみられる。

 検事総長時代には、文政権が月城原子力発電所1号機(カナダ型重水炉、67万8千キロワット)の経済性を不当に低く評価して閉鎖へ向けた議論をゆがめた疑惑について捜査を主導。出馬宣言後、まず向かったのは原子力を学ぶ学生との対話だった。

S+3E近く

 予備選でのエネ政策議論の中では「原子力抜きにカーボンニュートラルは困難」として「脱・脱原子力」の方向性を示した。脱石炭の必要性に言及しつつも、期限の設定には慎重な姿勢だ。日本の「S+3E」に近い考え方とみられる。

 一方の李氏は「エネルギーハイウエー」建設をうたう。40兆ウォン(約3兆8千億円)を投じ、人工知能(AI)基盤の能動型送配電網を整備するというが、具体像はおぼろげだ。その司令塔として気候エネルギー部(省に相当)を新設。2040年までの内燃機関車販売禁止も掲げる。

 原子力については時限爆弾になぞらえる書き込みをフェイスブック(FB)にするなど観念的な捉え方をしているようだ。文政権の脱原子力政策を継続する姿勢だが、その場合、単に前任者の引き継ぎというわけにはいかない。文政権下では運転許可期間を満了した1基のみの閉鎖となったが、同じ基準を適用すれば次期大統領の5年の任期中は複数基が廃止になるためだ。代替供給力の手当てなどで困難が予想される。

 普段からポピュリズム的言動が目立つが、京畿道を優れた行政手腕で仕切ったとの評価もあり、現実的な着地点を探る可能性もある。予備選の討論中、他の候補から脱原子力継承協定の締結を持ち掛けられたが「その必要はない」と退けた。サムスン系で産業界寄りの日刊紙・中央日報はこれを「注目すべきシーン」と指摘する。

今後の展開は

 今後の展開は見通しづらい。各社世論調査をみると、ほとんどの社で政権交代を望む声が多数派という結果が出ている。

 一方で、2者対決なら李氏が優位という結果が多い。保守中道の国民の党から安哲秀(アン・チョルス)候補、左派政党の正義党から沈相●(シム・サンジョン)候補も名乗りを上げている。候補一本化などの動き次第でまだまだ情勢は変化しそうだ。
 (●は女へんに丁)

◇メモ
 李氏勝利なら対日関係でも葛藤が予想される。FBには「周辺国民の生命と海洋生態系の安全まで脅かす福島の汚染水は放流すべきでない。日本は特定秘密保護法で制限した情報を公開せよ」と陰謀論的主張を書き込む。一方の尹氏は知日的との評価があり、文政権で「過去最悪レベルに陥った」といわれる両国関係の改善が期待される。

電気新聞2021年11月9日