気候変動対策として再生可能エネルギーの拡大が進む中、発電過程で二酸化炭素(CO2)を出さない原子力発電の意義が見直されている。脱原子力国であるイタリアで開かれた会合では、あの大物経営者が原子力発電を温暖化対策とエネルギー価格抑制の両面から「既に存在する解決策」と訴えた。米国防総省では、導入予定の小型モジュール炉(SMR)について、環境影響評価書の草案を取りまとめた。

イタリア…テスラCEO「原子力の放棄驚き」 再参入議論で必要性主張

 「原子力発電を放棄した国々には驚いた」――。米電気自動車(EV)大手・テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は現地時間24日、イタリアで開かれた「テックウイーク2021」にオンライン参加し、原子力は世界のエネルギーの主要な供給源であるべきだとの見解を示した。現地メディアなどが報じた。イタリアも脱原子力国だが、政官で第4世代原子炉を念頭に原子力“再参入”議論が取りざたされており、発言に注目が集まったようだ。

 フィアットなどを傘下に持つ自動車大手ステランティスのジョン・エルカン会長との対談での一幕。現地報道によると、マスク氏は太陽光を将来の主力エネルギーとしつつ「安全な原子力プラントは閉鎖してはならない。特に石炭火力に置き換えられる場合は」と主張した。

 エルカン氏もこれに同調し「中国とインドはますます多くの原子力エネルギーを使用している。これは私たちがどうすべきかを示唆する」と指摘した。直近のエネルギー価格上昇にも触れ、「原子力は既に存在する解決策であり、間違いなく強力に開発する必要がある」とした。

 イタリアはチェルノブイリ事故を受けて脱原子力政策を採ったが、しばしば利用再開が議論される。2011年6月の国民投票では約94%が再開に反対という結果となり、脱原子力を継続した経緯がある。ただ、欧州のエネルギー価格上昇や脱炭素を踏まえ、再開議論が再び盛り上がっている。

 現地報道によると、物理学博士でもあるロベルト・チンゴラーニ環境移行相は今月、中道政党のイタリア・ビバが主催した討論会で「第4世代原子力開発の機は熟している」と指摘。その上で「放射性廃棄物が少なく、安全性が高く、コストが低いという検証が出た場合には、利用を考慮すべきだ」と発言した。ただ、これに対しポピュリズム政党「5つ星運動」からは即時解任要求が出されるなど、反対論も根強い。

アメリカ…国防総省、可搬SMRのアセス前進 遠隔地利用見据え

 米国防総省は現地時間24日、導入予定の可搬型SMRについて環境影響評価書草案を取りまとめたと発表した。化石燃料を必要としないカーボンフリーのエネルギー源として計画するもので、可搬型原子炉は遠隔地や過酷環境下の利用を想定する。評価書は来年初頭にも確定し原型炉のメーカー選定に移る。

 国防総省は年間約300億キロワット時の電力を消費しており、このコスト削減と脱炭素を目的としている。ホワイトハウスの報告書では月や火星での活動のエネルギー源としても候補にリストアップされている。原型炉は1~5千キロワットの電気出力を想定し、最大出力で最低3年は稼働する設計とする予定。迅速な輸送と使用のため、搬入後3日以内に稼働し、最短7日で安全に撤去できるようにする。

 3月には原型炉の詳細設計を行う事業者をBWXTアドバンスドテクノロジーズとXエナジーの2社に絞り込んだことを発表していた。環境影響評価の結果を踏まえさらに1社に絞り、原型炉の製作に進む予定。

電気新聞2021年9月29日