巡回シャトルとして利用した日産の「e-NV200改」

 日産自動車は、ICTを活用した次世代の交通サービス「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」の実用化を目指している。その一環として、2月に福島県浪江町でMaaSの実証実験に取り組んだ。人と商品を同一の車両で運ぶ「貨客混載」や自動運転車両のデモ走行も展開。住民帰還と高齢化が進む浜通り地域で、使い勝手の良い住民の足を確保する。

 日産はエンジンを生産するいわき工場(いわき市)を構えるなど浜通り地域と深い関わりを持つ。2013年には、車載用蓄電池の再製品化を手掛けるグループ会社のフォーアールエナジー(横浜市、牧野英治社長)が浪江町内に浪江事業所を開設した。

 日産はデマンドタクシー(乗り合いタクシー)の利用調査を通じて浪江町民の移動需要などを調べてきた。「なみえスマートモビリティーチャレンジ」と銘打った今年2月の実証は、産業技術総合研究所(産総研)の「地域新MaaS創出推進事業」に採択されている。
 
 ◇車両を使い分け
 
 この実証では、町の中心部を回るバス「巡回シャトル」に加えて、郊外と町の中心部を結ぶ「スポーク車両」を用意した。中心部と郊外で車両を使い分けることで、移動効率を高めることが狙いだ。

 巡回シャトルは「e―NV200改」2台、スポーク車両は「リーフ」3台を使った。いずれも日産製の電気自動車(EV)。13日間で約50人の町民がサービスを利用した。

 巡回シャトルの停留所には、デジタルサイネージ(電子看板)を設置。トップ画面に停留所が表示されており、タッチ操作で目的地を指定する。乗車予約には顔認証システムを採用した。

デジタルサイネージを備えた巡回シャトルの停留所

 実証を企画・運営した日産総合研究所研究企画部主任研究員の保坂賢司氏は実証の結果について「巡回シャトルの利用は想定より多かった一方、商品の配送は少なかった」と振り返る。商品の取り扱いをイオン浪江店で購入もしくはウェブ注文したものに限り、要冷蔵・冷凍品を除外したことが要因だという。

 保坂氏は「過疎化地域でMaaSを成り立たせるには、貨客混載で輸送密度を高めることが重要」と強調する。今後は商品を扱う対象店舗を増やすほか、クーラーボックスを使うなどして要冷蔵・冷凍品に対応する方針だ。
 
 ◇気軽に呼び出し
 
 自動運転車両のデモ走行は無人化した車両の受容性を検証することが目的。試乗した町民からは「有人の車両よりも気楽に呼び出せる」など好意的な声が多く寄せられた。日産の内田誠社長が3月に内堀雅雄福島県知事、吉田数博・浪江町長と面会した際も、実証の継続を求められたという。

 日産は21年度、MaaSとEV、使用済みの車載蓄電池を連携させて浪江町内の再生可能エネルギーの利用率を高める実証を展開する考え。町内には、実証の拠点となる事務所も構える。

 保坂氏は「(実証の)コンソーシアム構築に向けて電力会社などと話をしている。将来的には浪江町で二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする『ゼロカーボンシティー』を実現させたい」と目標を語った。

電気新聞2021年6月8日