東芝エネルギーシステムズが納めた交直変換器

工期短縮、小型化へ工夫。若手、中堅の経験を次に

 
 東京―中部間を直流送電線でつなぐ「飛騨信濃周波数変換設備(FC)」が、3月末に運用を始めた。2011年の東日本大震災直後、全国で供給力が不足したことを受けて計画された設備。調査段階から数えると竣工までに約8年を要した。東西で主要設備を構築したのは、東芝エネルギーシステムズと日立製作所。両社は今回の経験を生かし、次の高圧直流送電(HVDC)設備や地域間連系線工事の受注を目指す。

 今回のFCは、東西間を容量90万キロワットの直流送電で結ぶ。運転開始により、東西連系の総容量は120万キロワットから210万キロワットに拡大した。東西間の電力融通量が増え、停電の早期解消といった効果が期待できる。容量増強は、東日本大震災後に国の有識者会議が答申して、計画が動きだした。

 設備構築では、FCの東側、東京電力パワーグリッド(PG)新信濃変電所(長野県朝日村)の増設は、東芝エネルギーシステムズが担当。西側の中部電力パワーグリッド(PG)飛騨変換所(岐阜県高山市)の新設は、日立が請け負った。

 東芝エネルギーシステムズは、1977年にも同じ新信濃変電所に周波数変換装置を納めている。HVDCシステムについても、四国―関西をつなぐ阿南紀北直流幹線に納入したほか、12年には日本のメーカーとして初めて海外でHVDCシステムを受注。イタリアとモンテネグロ間をつないだ。

◇東電PGと連携

 新信濃変電所の増設は、過去に東電PGと連携してきた経験が生きている。機器の据え付けが始まったのは17年。専門のエンジニアリング部隊が工事前に東電PGと機器の仕様や工事工程を協議した。工事期間短縮策を提案し、実行していった。

 変電所内はスペースが限られるため、機器の小型化に力を注いだ。交直変換の心臓部となるサイリスタバルブの仕様、構造を見直し、製品サイズをコンパクト化した。

◇深夜の通電試験

 ほぼ全ての機器は19年度中に設置を完了。20年度からは試験に入った。コロナ禍だったこともあり、感染防止に努めつつ、各機器の状況を確かめた。思わぬ事態となったのが、20年末から続いた電力の供給力不足だ。グリッドアグリゲーション事業部電力変電技術部パワーエレクトロニクスシステム技術グループの相沢仁士エキスパートは、「昼間の通電試験を予定していたが、電力が足りない状況。試験を深夜にスライドした」と明かす。

 3月末の運転開始を振り返り、小坂田昌幸技師長は「短工期だったが効率よく、適切な機器を設置できた」と話す。「若手や中堅の人材を積極的に配置した。国内でFCの工事が豊富にあるわけではないが、今回の経験が次の工事に生きるはず」と今後にも期待を寄せる。

 東芝エネルギーシステムズは、今回と異なる自励式のHVDCシステムを北海道―本州間の新北本連系設備に納めている。

 小坂田氏は、「自励式のニーズは高まる。他励式とともに自励式も技術開発に努め、案件を確実に受注したい」と力を込める。

電気新聞2021年5月10日

※「FC新増設・メーカーの直流送電技術」は全2回です。続きは電気新聞本紙または電子版のバックナンバーでお読みください。