脱炭素社会実現の鍵としてモビリティーの電動化が挙げられるが、電力エネルギー分野との連携やエネルギー×モビリティーのプラットフォーム構築など、eモビリティーの普及拡大に向けた一層の取り組みが必要な局面を迎えている。欧州のスマートシティー・プロジェクトでも重視されているエネルギー、モビリティー、ツール・サービスの3つの観点から、第2回ではeモビリティーが創り出す将来のスマートシティーの具体像を大胆に想像してみたい。
 

大都市、中規模都市、町村部の役割とモノや人の流れは?

 

 ○都市部はプレミアム
 大都市では、高い人口密度やオフィス・商業施設集積のため、電力需要や人・モノのモビリティーデマンドに見合うプレミアムなレベルでのサービス提供が必要となる=図
 ポイントは、エネルギーであれば再生可能エネルギーを、モノであれば都市で利用される付加価値の高い食品や製品、商品を、他地域から調達しつつ、都市機能のレジリエンスを意識しながら、高密度、高信頼度の電力・物流・公共交通ネットワークを構築し、運営することにある。例えば、交通面ではバス・トラックも含めた多様なeモビリティーの普及が期待できる、電力面ではデマンド・レスポンスが普及するだろう。さらに交通と電力の双方に関わる面では、スマート街灯や公共充電スポット、駐車場シェアなど、シェアリングサービスの定着が期待できる。これらのツールの効果が発揮できるのが大都市部である。

 ○中規模都市はコンフォート
 大都市周辺の中規模都市では、食品、工業製品といったモノや人の流れのハブとしての役割を担うとともに、快適性・環境性を重視するコンフォートな居住サービスの提供が重要となる。
 エネルギー面では、住宅・商業・工場施設それぞれにおいてネット・ゼロが実現される。モビリティーでは、鉄道駅などを拠点に、公共交通とeカーやeタクシーなどのパーソナルモビリティーをシームレスに接続し、域内移動を確保することがポイントとなる。エネルギーとモビリティー双方の地域内の需給マッチングや、eモビリティーの持つ充電制御や充放電制御の柔軟性のポテンシャルを総合的に評価するツールが求められる。

 ○町村部はインクルーシブ
 町村部は農地や牧場、自然豊かな景観や住環境、史跡や温泉などの地域資源を有しており、急速な人口減少の可能性も鑑みると各町村の特長を生かした振興策が求められる。
 再生可能エネルギーや付加価値の高いモノ(食品・商品)の町村外への輸出の一方、地域独特のサービスやホスピタリティーによる観光客、他都市からのワーケーションや移住の受け入れといったことが例として挙げられる。
 eモビリティーはパーソナルモビリティーからライドシェア、自動運転タクシー、自動配送のほか、移動販売、キッチンカー、ドクターカーなど、マルチ・インフラとしての役割をカスタマイズして仕上げる必要がある。
 さらに再生可能エネの地産地消を実現するために、各住宅に配備されているeモビリティーを蓄電池としても運用する。このようにインクルーシブな観点が重要となろう。
 

大都市で導入される多様なeモビリティー。農村部から都市部へ送られる電力

 
 図に示すように、大都市、周辺の中規模都市、郊外の町村部は、共生する構成となっている。町村部で豊富に発電された再生可能エネが中規模都市を経由して大都市まで届けられる。大都市では、多様なeモビリティーやDRなどで、電力、交通デマンドが効率化され、町村部からの再生可能エネが利用される。一方、人々が大都市から中規模都市を経由して町村部へ移動し、観光やワーケーション、移住などのサービスを受ける。中規模都市はシームレスな物流と居住の拠点を担いながら人口を増やしていく。

 スマートシティーを構成する大都市・中規模都市・町村のエコシステムの構造やウィズ・コロナ、ポスト・コロナ社会における人とモノの流れの変化も意識しながら、eモビリティーの新たな役割を考えていくことも重要である。

【用語解説】
◆デマンド・レスポンス
料金設定によりある時間帯の需要を抑制、他の時間帯にシフトさせること。電力と公共交通、両分野でインフラ有効利用策として検討・実用されている。

◆ネット・ゼロ・エネルギー
ある期間でのサイトでの総発生エネルギーと総消費エネルギーの収支がゼロであること。住宅やビルで年間評価されることが多い。

◆ワーケーション
ワークとバケーションを組み合わせた造語で、観光地などでリモートワークを活用しながら仕事と休暇を両立させること。

◆インクルーシブ
多様性を尊重し、誰一人取り残さず、みんな一緒に、を実現すること。

電気新聞2021年1月25日