政府の気候変動政策を巡る議論が急ピッチで進んでいる。4月22日の米国主催の気候変動サミットや6月の先進7カ国首脳会合(G7)で、菅義偉首相が2030年の温室効果ガス削減目標(NDC)を打ち出す観測が浮上。目標策定に必須なエネルギー基本計画は今夏の改定を予定しているが、首相の外交日程に左右される可能性も出てきた。米国でバイデン政権が誕生したことを引き金に、気候変動への関心が世界的に高まっていることも背景にある。

 政府は3月31日夕に「気候変動対策推進のための有識者会議」の初会合を開催。菅首相は「世界の脱炭素化に積極的に貢献して国際社会の議論をリードする」と意気込みを語った。会議は各省庁による気候変動やエネルギーに関する政策を分野横断的に議論し、相次ぐ国際会議への対応方針を検討する目的で立ち上げた。

 会議は非公開だったが、事務局によると、30年の温室効果ガス削減目標が大きな論点となった。いつまでに目標を示すべきという意見はなかったが、事務局は「米国気候サミットやG7を前提に議論が展開された」と説明した。
 
 ◇米新政権で一変
 
 当初、政府はNDCを11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)までに改定する方針だった。だが、バイデン氏が米国大統領に当選して状況が一変。米国は4月の気候変動サミットまでに自国のNDCを表明しつつ、サミットで各国に野心的な目標を迫る見込みだ。EU(欧州連合)は先んじて、昨年末に30年目標を引き上げた。日本は政策議論を急がざるを得ない状況に追い込まれた。

 温室効果ガスの8割以上はエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)が占めるため、削減目標の策定にエネルギー基本計画は欠かせない。エネルギー基本計画を踏まえ、地球温暖化対策計画を見直し、NDCを決定する。今夏を予定していたエネルギー基本計画の改定作業は急加速している。政府関係者は「エネルギー基本計画の改定を含め、G7までに気候変動関連の政策が何も決まっていないということはあり得ない」と断言する。
 
 ◇10年でどこまで
 
 政府の有識者会合では野心的な数値に引き上げるべきという意見が複数出た。対策の積み上げだけでなく踏み込んだ目標が必要という声も出た。50%以上という提案もあった。

 その一方で、信頼される30年目標を構築すべきという指摘も出た。目標の策定過程を透明にし、国民的な合意を得られなければ達成できないとした。30年まで残された期間は10年を切っており、特にインフラを整備する時間は限られる。新たな削減目標には50年カーボンニュートラル以上に、明確な道筋が求められる。

電気新聞2021年4月2日