中国電力ではカーボンリサイクルを目指し、二酸化炭素(CO2)を「資源」として有効利用する技術の開発に取り組んでおり、その中には実証・実用化段階に進んだものもある。本連載ではその中から、CO2と石炭灰および電柱廃材から新たな土木材料を作る「CO2―TriCOM(シーオーツー・トリコム)」(第1回)、CO2を利用して油脂を製造する「Gas―to―Lipids(ガス・ツー・リピッズ)バイオプロセス」(第2回)、CO2をコンクリートに固定する「CO2―SUICOM(シーオーツー・スイコム)CO2有効活用コンクリート」(第3回)について紹介する。
 

CO2を資源として捉える

 
 石炭火力発電は、供給安定性および経済性に優れ、我が国において重要なベースロード電源である。一方で、CO2排出量が大きく、脱炭素化に向けた取り組みが課題となっている。課題解決のひとつの方法として、排出したCO2を資源として捉えた炭酸塩などへの利用は、CO2固定化ポテンシャルが高いことなどから、カーボンリサイクル技術として早期の社会実装が望まれている。当社では、広島大学、中国高圧コンクリート工業と共同でCO2―TriCOMと称してCO2、石炭灰、廃コンクリート粉を活用したCO2吸収焼結体の開発研究に取り組んでいる。


 

炭酸塩として固定。石炭灰や電柱廃材のリサイクルも

 
 CO2―TriCOMとは、火力発電所から発生するCO2および石炭灰のほか、電気事業に伴って発生する副産物である電柱廃材を混合し、マイクロ波による加熱で焼結する過程でコンクリート粉(CaO)がCO2を吸収し、炭酸塩(CaCO3)として固定化する技術である。これまで廃棄物として課題となっていた石炭灰と電柱廃材にCO2を「取り込む」ことで新たな製品として生まれ変わらせる画期的なカーボンリサイクル技術である。

 CO2―TriCOMによるCO2吸収効果は、石炭灰と廃コンクリート粉の混合物を焼結させる過程で、廃コンクリート粉の30%がCO2を吸収するものとして試算すると、焼結体1トン当たり60キログラム―CO2となる。砂に近い粒径の焼結体が製造できれば、水を通しやすく砂よりも軽いクリンカアッシュに代わる土木材料として利用することができる。クリンカアッシュは、軽量盛土材、緑化基盤材、排水材などとして広く活用されておりニーズの高い材料であることから、CO2―TriCOMのクリンカアッシュ代替材としての利用は有望視されている。

 現在は、実験室でのCO2―TriCOMの製造に成功しており、配合および製造システムの最適化について検討している。本技術に関して、さらに研究を推し進めるため、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/炭酸塩、コンクリート製品、コンクリート構造物へのCO2利用技術開発」に応募し、2020年7月に採択された。



 今後3年間をかけてNEDO事業により開発・実証試験を進めることで本技術を確立し、30年度の実用化を目指す。21年春から小型プラントの設置準備を開始し、試作品を製造しながらCO2吸収量が最大となる最適配合検討や品質確認および製造コスト削減検討などを行う予定である。
 

多数の火力発電所で採用されれば、CO2吸収効果大きく

 
 実用化に当たっては、5万トン/年のCO2吸収焼結体製造を目指しており、その場合のCO2吸収量は3千トン―CO2/年が見込まれる。将来的に、他の事業者にも積極的な技術導入を働き掛け、多くの火力発電所でこの技術を採用できればその効果は大きくなると期待している。

 CO2―TriCOMは、石炭火力発電の安定供給に加え、CO2排出量の削減や石炭灰および電柱廃材のリサイクルといった環境対策へ貢献できるニーズの高い技術であり、早期実用化に向けて取り組んでいく。

【用語解説】
◆フライアッシュ 
集塵器で捕集される微細粒子の石炭灰。石炭火力発電所から発生する石炭灰の9割を占める。

◆クリンカアッシュ 
ボイラー底部の水槽に落下し堆積した塊状の石炭灰。発生割合は1割程度。

電気新聞2020年12月14日