規制委は新規制基準に基づく厳格な規制を行っている(写真は13年7月に開かれた第1回審査会合)

 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故を境に、原子力施設の安全規制は大きく変わった。12年9月に誕生した原子力規制委員会は、13年7月に原子力発電所の新規制基準を策定し、厳格な規制を行ってきた。だが、福島第一事故からまもなく10年を迎えようとしている現在、規制委の規制手続きには変化が生じつつある。規制委のこれまでの規制事例を振り返りつつ、規制委が志向している安全性向上の在り方を探った。

 規制委は、技術的・科学的観点からの規制を旗印にしている。5人の委員は、原子力工学や地震、放射線防護などの専門家で構成される。国家行政組織法3条に基づく「三条委員会」で、独立性も高い。原子力を推進する経済産業省から旧原子力安全・保安院を切り離し、原子力安全委員会などと統合した原子力規制庁が事務局の機能を担う。
 
◇厳しすぎる規制
 
 原子力発電所の新規制基準は、活断層調査の強化やシビアアクシデント(重大事故)対策を義務化した。これまで新規制基準に適合したプラントは16基ある。ただ、断層の活動性に関する審査に苦戦するプラントが多く、現在も11基のプラントが原子炉設置変更許可申請の審査を抜け出せていない。新規制基準適合性審査未申請のプラントも8基ある。これは事業者が優先度の高いプラントの審査に力をそがれていることが影響している。

 新規制基準は、故意による航空機衝突などに対応する「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置も求める。ただ、現在までに特重施設の運用を開始したプラントは3基にとどまる。これらの数字は、新規制基準に基づく規制の厳しさを端的に表す。

 特に、特重施設が設置期限内に完成しなかったプラントの運転継続を認めなかったことは、規制委の厳しい規制の象徴ともいえる。いったんは特重施設の設置期限を延長したが、再延長は認めなかった。更田豊志委員長は「譲れないところは譲らない姿勢を示さないと、かつて(の旧規制当局)と変わらないということになる」との考えを強調している。

 このような規制委の規制手法には、一部批判の声が上がっているのも事実だ。福井県選出の滝波宏文参院議員(自民党)は「規制委の行政手続きには、デュープロセス(適正手続き)の観点から改善すべき点が多々ある」と指摘。各判断のルールを明確化するなどして、関係者の予見可能性を時間的にも質的にも高めることが重要との認識を示す。
 
◇新提案どう対応
 
 規制委は原子力安全を高めるため、「バックフィット」という武器も与えられている。新設だけでなく既設発電所にも新たな要求事項への対応を求める制度で、規制委も運用に力を入れてきた。

 そのバックフィットの一例として思い起こされるのが、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の審査で事業者が提案した「代替循環冷却設備」だ。規制委は同設備の格納容器過圧破損防止対策としての有効性を認め、17年に新規制基準に取り入れている。

 ただ、更田委員長は当時の会見で「事業者が新たな提案をすると全てが基準に取り込まれるような状態は、新しい提案や向上意欲を縛ってしまう」と、バックフィットが「負のインセンティブ」をもたらすことへの懸念を示していた。

 強硬的ともとれる規制手続きが散見される一方で、規制委は事業者の自主的安全性向上の取り組みに対して、どう接するかを大きな課題として認識し続けているようにも映る。福島第一事故を経験した社会の原子力事業者に対する視線は厳しいが、更田委員長は「事業者の自主だから信用できないと思わなければならないのは不幸なこと」とも語り、事業者の自主的安全性向上の取り扱いには頭を悩ませている様子だ。

 規制委に様々な問題提起を行ってきた浜野喜史参院議員(国民民主党)は、「バックフィットによらない自主的な安全性向上対策が今まで以上に促進されるよう、規制側と被規制側の双方が改善を検討していく必要がある」と主張する。

電気新聞2021年2月25日

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