政府のグリーン成長戦略実現に向け、京都大学発の核融合スタートアップ企業が注目されている。2019年10月設立の京都フュージョニアリング(京都府宇治市、長尾昂代表取締役)だ。今月、ベンチャーキャピタル(VC)などから1億1600万円の資金を調達。核融合発電の主要機器の開発や人材確保を加速する。同社の技術は世界的にも唯一無二と言え、欧米を中心に核融合炉の実用化競争が本格化する中で成長が期待される。

 核融合炉は脱炭素化の追い風に乗った。政府は昨年12月に公表したグリーン成長戦略の中で、核融合炉を含む原子力技術のイノベーションを加速する方針を示した。米政府も独自の核融合炉開発を検討中だ。

日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7カ国が開発に参画する国際熱核融合実験炉「ITER」の全体図。2025年に運転を開始する予定だが、これとは別に、スタートアップ企業などによる独自核融合炉の開発も進んでいる

 核融合炉開発では日本も参画する国際熱核融合実験炉「ITER」が知られるが、それだけではない。欧米を中心にスタートアップが続々と立ち上がり、現在は40~50社に上る。特に有力な5社(ビッグ5)はITERの運転開始時期と同じ25年の実用化を目指し、既に計1300億円を超える民間資金を調達済みだ。

 京都フュージョニアリングは、ビッグ5の競争とは一線を画す。共同創業者である小西哲之・京大教授の研究成果をベースに設立された同社は、核融合発電の主要機器を作る唯一無二の技術を保有しているためだ。

 核融合発電の仕組みは、プラズマの中で核融合反応を起こす過程と、発生した熱を取り出す過程の大きく2段階に分かれる。ビッグ5が得意とする技術は第1段階で、第2段階は京都フュージョニアリングの独壇場。小西教授いわく「剛速球を投げるピッチャーがいても、受けるキャッチャーがいない状態」のため、5社のいずれが勝っても受注が期待できる。

 同社が提供する装置は、熱を取り出す「ブランケット」と不純物を排気する「ダイバータシステム」。日本とロシアしかつくれないプラズマ加熱装置「ジャイロトロン」の製造・輸出も仲介する。

 装置の製造には3年かかる。ビッグ5の計画と歩調が合うよう、経済産業省の補助金を得て20~22年にサンプルを開発し、受注・生産を開始する予定だ。喫緊の課題の一つは人材確保で、原子力や重電事業の経験者などを求めている。

 同時に資金調達も進めており、今回、第三者割当増資を通じてVCのコーラル・キャピタルと個人投資家、共同創業者2人から計1億1600万円を調達。既に京大全額出資のVCから調達した分を含め累計調達額は3億4400万円になった。

 同社は核融合発電をベース電源の代替としてだけでなく、燃料生成工場としての活用も見込む。核融合炉の熱を使って植物を高温加熱し、発生した水素ガスで燃料電池を動かす。そうすることで電力系統の整備が遅れている途上国への導入が期待できるという。長尾代表は「核融合発電を実現するには、ありとあらゆる先進技術が必要。投資家や様々な分野の技術者、パートナー企業の協力を得たい」と話す。

電気新聞2021年1月27日