エネルギー転換を先導したいと意気込んだディバカール氏
エネルギー転換を先導したいと意気込んだディバカール氏


◆大手電力、エネ転換先導 石炭閉鎖/巨大蓄電所へ プール制、収益化促す


 「我々の野心はとても明確だ。エネルギー転換で先導的な立ち位置を取り、似たビジョンを持つ会社を支援する。最も進んだエネルギー企業になりたい」。オーストラリアの大手電力、オリジン・エナジーのジェイ・ディバカール氏は力を込める。
 オリジンは「ビッグ3」の一角と称される豪州最大のエネルギー企業で、発電部門と小売部門を擁する「ジェンテイラー」だ。トランジション(移行)期を支えるLNGの輸出も事業の柱で、海外との縁も深い。大手電力として存在感を示してきたオリジンが今、脱炭素化というエネルギー転換のリーダーとなるべく変化を急ぐ。
 象徴的な案件が、ニューサウスウェールズ州にある大型石炭火力のエラリング発電所の閉鎖だ。同発電所は72万キロワットの石炭火力発電ユニット4基を主に擁し、ニューサウスウェールズ州の需要の2割以上を賄うなど安定供給に貢献してきた。だが、オリジンは同発電所を閉鎖する方針を発表。ディバカール氏は、オリジンが石炭火力閉鎖に踏み切る理由について「2050年の(二酸化炭素排出量の)ネットゼロを目指す政府の動きに同意した」と説明する。廃止期限は27年とすぐそこだ。

再エネで補う
 石炭火力を失った後の供給力は、再生可能エネルギーと蓄電池、そしてVPP(仮想発電所)で補う。閉鎖後のエラリング発電所の土地は、巨大な蓄電所に生まれ変わる。オリジンは同発電所跡地で蓄電池の設置を順次進め、合計容量を280万キロワット時にまで拡大する計画だ。
 日本にはない豪州の電力市場の特徴も、蓄電池やVPPへの投資を後押しする。豪州には東部と南部の6地域が参加し、発電した電力全てを市場に投入する「プール制」で運用される全国電力市場(NEM)がある。電力は5分間隔で取引する。供給力が潤沢な時にお金を払って電力を引き取ってもらう「ネガティブプライス」も1キロワット時当たり1豪ドルを下限に認められ、ボラティリティー(価格変動性)は日本より激しい。蓄電池の充放電をはじめ、分散型エネルギー設備を上手に活用すれば収益を拡大する機会が広がる。

電気代に還元
 オリジンは日中の電力市場価格の乱高下や電気自動車(EV)の普及といった潮流を捉え、19年に新組織として「オリジンLoop(ループ)」を立ち上げてVPPの拡大に取り組み始めた。独自のVPPプラットフォームとして「KINERGY(キナジー)」を自社で開発。4秒ごとに取得した家庭の電力データをもとに蓄電池や給湯機、EVといった設備をきめ細やかに制御し、VPPに参加した報酬を電気料金の割引といった形で家庭に還元する。
 オリジンが制御できる容量は150万キロワットを超える。キナジーの責任者を務めるディバカール氏は「住宅向けのVPPとして豪州最大だ」と誇る。オリジンはVPPを戦略に組み込みたい他の電力会社などにもキナジーを提供し、その裾野を広げようとしている。
 米国では環境対応に熱心だったバイデン政権の時代が終わり、トランプ政権が化石燃料の重視に急旋回する。豪州が同じ道をたどる恐れはないのか。ディバカール氏は「火力発電の道を引き返すことは、おそらくさらに高いコストがかかるだろう」と指摘する。豪州の脱炭素化の動きは止まることなく続く――。現地のエネルギー事業者はそう確信しているようだ。

 日本が50年のカーボンニュートラル実現を宣言してから5年が経つが、天候次第で出力が変わるといった「副作用」の多さから再エネ導入の障壁はいまだ高い。豪州では急増する再エネを支えるため、エネルギー事業者が蓄電池を使ったサービスなどで新機軸を生む。ビジネスを育てるのは気候変動問題への危機感だけでなく、日本とは異なる電力市場の在り方だ。豪州の現在地と生まれるビジネスの最前線を取材した。(辻村陽希)

電気新聞2025年4月4日