
2024年11月、関西電力高浜発電所1号機(福井県高浜町)が営業運転開始から50年の節目を迎えた。50年を超える運転は国内で稼働中の原子力プラントとしては初めてで、今後も点検・検査で劣化の予兆がみられる機器・部品を適切に交換するなど高経年化対策を行い、安全を最優先に長期運転に取り組む。第7次エネルギー基本計画で「原子力の最大限の活用」がうたわれる中、既にある原子力発電所の長期運転は大きなテーマの一つ。電力の安定供給確保と脱炭素社会の実現に貢献する同発電所を、滋賀県出身で、エネルギー問題に関心を寄せるアーティストの西川貴教さんが訪れた。
○安全性向上、新規制基準クリア/事故防止の備え随所に
福島第一原子力発電所の事故では、地震に対して原子炉を止めることはできたが、その後の津波で電源設備などが水没した。結果、原子炉や使用済み燃料プールの冷却機能が喪失し、燃料棒が溶け出して水素が発生。水素爆発が起きたことから、外部へ放射性物質を放出することになった。事故を教訓に、国は新規制基準を策定し、安全対策を大幅に強化。高浜発電所では新規制基準に対応し、地震や津波などの大規模自然災害に備えるため、電源と給水手段の多重化・多様化を図っている。
津波対策として設置したのが取水路防潮ゲートだ。震災後、高浜発電所では地震の想定を引き上げ、それに伴って想定される津波の高さも見直した。最大6.2メートルと想定される津波に対し、高さ8.5メートルの防潮ゲートを設け、敷地内への浸水を防止。放水口側にも高さ8メートルの防潮堤を設置した。毎秒100メートルの竜巻が発生し、鋼材が飛んできても機器を守れるように設置した強固なフェンスや、周辺で森林火災が発生した際に延焼を防ぐための防火帯を確保するなどの対策も行われている。
原子炉の冷却を続けるための電源や冷却手段の多重化・多様化も実施した。空冷式の非常用発電機や電源車を津波の影響を受けない高台に設置し、送水車や大容量ポンプなどを新規に設置するなど、事故の進展を防ぐための対策を行っている。
ハード面だけでなく、ソフト面の対策も重要だ。1号機から4号機まで同時に重大事故が発生しても事故対応の指揮が行えるように緊急時対策所を設置した。外部からの応援がなくても7日間活動できる資機材を確保し、通信手段として通常の電話回線に加えて衛星回線も設置している。また、年1回の大規模な防災訓練や、それ以外の小規模なものを含めると、年間数千回に及ぶ訓練を実施している。西川さんは「緊急時対策所が稼働しないことが望ましいと思いますが、ソフト、ハードの両面で対策が重ねられていることが分かりました」と話した。
○長期運転支える高経年化対策/機器交換、中身は最新

原子力発電所の運転期間は40年とされ、国の認可を受ければ、20年の延長(最長60年運転)が可能だ。高浜発電所1、2号機は取り換えの難しい設備の特別点検やその他の重要設備の評価・取り換えなどの実施を経て、運転期間延長の認可を申請し、認可を受けた。
特別点検では取り換えが難しい「原子炉容器」「原子炉格納容器」「コンクリート構造物」について、設備の状況を詳細に把握。超音波や渦電流などを用いて健全であることを確認した。
また、機器の交換も積極的に行っている。1、2号機では主要機器の一つである蒸気発生器の取り換えを実施。蒸気発生器は原子炉の中で作った高温高圧の熱水を利用し、発電を行うための蒸気を作る設備で、経年劣化により、蒸気発生器内の伝熱管損傷などの事象が想定される。そのため、1、2号機では、安全性を高めた改良型への取り換え工事を行った。
また、20年の延長とは別に、運転開始30年から10年ごとに、安全上重要な機器や設備をどのように管理していくか定めた「長期施設管理計画」を国に提出し、認可を受ける必要もある。1、2号機では50年を超えて60年の間の劣化評価と結果を踏まえた保全策などについて、国に認可申請を実施している。
高経年化対策に関する様々な取り組みを聞いた西川さんは「外観は建設当時とほとんど変わらなくても設備・機器が必要に応じて交換されていると知り、中身は新しく生まれ変わっているということが分かりました」と実感を交えて語った。