九州電力グループの九電みらいエナジー(福岡市、水町豊社長)は長崎県五島市で、潮流発電の試験運転を12月にも始める。水深約40メートルの地点に出力500キロワットの大型発電機を置き、約2カ月にわたり発電状況を確認する。大型発電機を用いた潮流発電としては国内で初めてという。潮流発電は海洋エネルギーを有効利用し、安定して発電できるメリットがある。同社は海に囲まれた日本に適した発電方式とみて、早期実用化を目指す。
実証事業は環境省の委託を受け、九電みらいエナジーや長崎海洋産業クラスター形成推進協議会などからなるコンソーシアムが手掛ける。実施海域は五島列島の中ほどに位置する奈留瀬戸。潮流発電には毎秒1メートル以上の流速が必要とされ、奈留瀬戸は同3メートル以上の流速があり適地と判断された。終了後、発電機は撤去する。
日本ではまだ研究・実証レベルの域を出ない潮流発電だが、九電みらいエナジーは日本に適した発電方式と捉えて実用化を急ぐ。同社の寺崎正勝常務取締役・事業企画本部長は「陸地での再生可能エネルギー開発はいずれ国土的な制約が出る。海洋エネルギーの有効活用が必要」と強調。「西日本エリアは潮流発電の適地が多い」とも指摘し、そのポテンシャルに期待を示す。
◇メリット多彩
事実、潮流発電は多様なメリットを持つ。エネルギーをつくり出す潮流は、月と太陽の引力で生じる潮の干満で起こる。潮の干満は規則性があるため、発電量を予測できる。出力変動が激しい太陽光発電や風力発電に比べ、信頼性が高い発電方法といえる。
また、発電設備は風力発電よりもコンパクトで、海中深くに沈めて設置する。このため、船舶の航行や漁業に与える影響は小さく、騒音発生や景観破壊といった問題も起きない。五島列島は風光明媚(めいび)な場所として知られるが、実証事業への地元理解は問題なく得られたという。
◇商用化の例も
既に英国では商用事例が出ている。サイメック・アトランティス・エナジー(SAE社)が英国北部で実施する「MeyGenプロジェクト」(1500キロワット×4基)だ。
SAE社は今回の実証にも協力する。SAE子会社のアトランティス・オペレーションズ・UKがSAE社製の発電機を貸し出すほか、設置工事に必要な技術指導などを実施する。日本の海洋工事会社が施工を担えるよう、英国技術者のノウハウを学んでもらう狙いだ。
寺崎氏は実証後、発電出力を高めた上で「事業化に進みたい」との意欲をみせる。事業化が進めば、設備類の国産化など、国内産業の振興面での波及効果も大きそうだ。
ただ、潮流発電はFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)による買い取り価格がないといった点が課題に残る。寺崎氏は今回の実証を今後の普及に向けた「モデルケースにしたい」と意気込み、制度面の整備が進むことにも期待を示す。
電気新聞2020年10月27日
>>電子版を1カ月無料でお試し!! 試読キャンペーンはこちらから