衆院本会議で演説する菅首相(国会)

 菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガス排出量と吸収量を合わせてゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指すと宣言した。「もはや温暖化への対応は経済成長の制約ではない」と強調した上で、「積極的に対策を行うことが産業構造や経済社会の変換をもたらす」と意識変革を訴えた。同日、梶山弘志経済産業相は臨時会見を開き、水素や蓄電池、カーボンリサイクルなどの重要分野について、具体的な実質ゼロの目標年限や規制整備などを盛り込んだ実行計画を今年末をめどに取りまとめると表明した。

 菅首相は、26日に召集された臨時国会の冒頭、「50年までに温室効果ガスの排出をゼロにする。すなわちカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、グリーン社会の実現を訴えた。同時に、革新的イノベーションの重要性を説明。具体技術として次世代型太陽電池、カーボンリサイクルを挙げ、実用化を見据えた研究開発を促進するとした。

 電源については、省エネや再生可能エネルギーの最大限導入とともに「安全最優先で原子力政策を進める」と言及し、脱炭素化と電力安定供給の両立を実現する方針を説明。一方で、「長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換する」とも述べた。

 同日午後に経産省内で臨時会見した梶山経産相は、「(カーボンニュートラルへの)挑戦は日本の成長戦略そのもの。高いビジョンを掲げ産学官が本気で取り組む」と述べた。産業界との調整などが必要なことから、実現に向けた検討は環境省ではなく、「経産省が主導する」と宣言した。変化をビジネスチャンスと捉え、企業の行動変容を政策的な支援で実現したい考えだ。

 特に強調したのがエネ分野の取り組み。今後、カーボンニュートラルに向け、電力需要の増加も見込まれる。梶山経産相は、再生可能エネや原子力など「使えるものを最大限活用する。水素など新たな選択肢も追求する」と説明。火力については「CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)やカーボンリサイクルを最大限活用して利用する」と述べ、一定程度の活用を示唆した。

 また、需要側の取り組みとして、産業、運輸、家庭部門では、「電化、水素化が基本」と説明。電化で対応できない製造プロセスは、水素などを活用して実質ゼロを目指すとした。今後、カーボンニュートラルに向け、第6次エネルギー基本計画の策定議論で、どう具体的な将来展望を描けるかが焦点となる。
電気新聞2020年10月27日