オークションサイトで転売されているリーフの蓄電池。解体業者用の取り外しマニュアルには「不適切な二次利用を行うと重大事故につながる恐れがあります」と記載されているが…

 蓄電池は駆動用バッテリーとして、あらゆる電動車に搭載している。自動車業界では「廃棄物の処理および清掃に関する法律」(廃棄物処理法)に基づき、車載蓄電池を無償で回収する仕組みを構築。その回収費用は自動車メーカーが負担している。2018年のリチウムイオン電池の回収実績は2364個に上るが、「ほとんどは産業廃棄物として処分されている」(自動車業界関係者)のが現状だ。

 無償回収の仕組みから外れ、高く売りたい解体業者がオークションサイトで転売するケースも一部でみられる。自動車メーカーは「非常に危険だ」と憤るが、日本自動車工業会は「特に対策は考えていない」と足並みはそろっていない。

 矢野経済研究所の調査によると、20年に全世界で15万トンとされている使用済み車載蓄電池の廃棄量は、25年には88万トンに増える見通しという。

 日産自動車と住友商事の合弁で電気自動車(EV)用蓄電池の再利用事業を手掛ける「フォーアールエナジー」(横浜市)の塩見達郎副社長(当時)は言う。「それまでに手を打たないと(蓄電池が)路上で山積みになる。自動車メーカーとして最終処分まで責任を持たなければならない」。その言葉からは事業者としての責任感と将来への危機感がにじむ。
 
家庭用の販売断念
 
 2010年9月に設立したフォーアールエナジーは再利用ビジネスの先駆者といえる存在だ。日産のEV「リーフ」の廃車から回収した蓄電池の性能を確認した上でリサイクルし、EV用や定置用の蓄電池として供給している。足元の事業環境は厳しく「黒字化していない」(住友商事)という。そもそも回収する蓄電池の数量がまだ少なく市場も小さい。思うように販路も開拓できず、家庭用の販売を取りやめたのが実情だ。

 蓄電池の再利用を促すには電池性能(容量)を評価する技術の確立や、再利用を前提とした設計の重要性が指摘されている。コスト面や安全面の担保は言うまでもない。

 あとは電池の数量をいかに確保するか。使用済み蓄電池の数が増えれば事業として成り立つ公算は大きい。トヨタ自動車と、使用済み蓄電池の再利用・リサイクルの実証に取り組むJERA経営企画本部調査部の尾崎亮一技術経営戦略ユニット長は、「使い手がいないと(蓄電池は)流通しない。まずは我々が大規模の蓄電システムを構築して(蓄電池の)流通網をつくる足掛かりにしたい」と意気込む。
 
調整用電源に活用
 
 中国電力はマツダ、明電舎と協力し、使用済み蓄電池の再利用に関する実証を展開。九州電力や東京電力パワーグリッド(PG)なども蓄電池制御技術を持つベンチャー企業「NExT―e Solutions」と連携し、技術開発を進めている。

 EVの場合、蓄電池は車載用としての寿命を迎えても大半は7~8割程度の蓄電容量を維持できる。電力業界が車載蓄電池の再利用に力を注ぐのは、電力需給や周波数変動の調整用電源としての活用を見込んでいるからだ。

 蓄電池にはニッケルやコバルトといったレアアースが使われており、中国など海外からの輸入に依存している。資源の有効活用という視点でも再利用の意義は大きい。再利用は不適切な処理や投棄の防止、環境負荷軽減にとどまらず電動車自体の付加価値向上につながる可能性も秘める。

 使い終わった車載蓄電池に新たな価値を見いだせるか。再利用ビジネスを模索する事業者の現状と課題を追った。

電気新聞2020年10月19日

※「車載蓄電池はどこへ」は全4回です。続きは電気新聞本紙のバックナンバーでお読みください。