九州電力グループ(以下、九電グループ)では、「ずっと先まで、明るくしたい。」をブランドメッセージとする「九電グループの思い」の下、九州が保有するポテンシャルを生かした地域・社会の持続的発展へ貢献するとともに、九州から世界を変えていくべく「九電グループ経営ビジョン2030」を策定した。このビジョンの実現に向けた取り組みの一つが、2017年1月より先行して開始したイノベーションの取り組み「KYUDEN i―PROJECT」である。

 九電グループのイノベーションへの取り組みは、2016年から始まる。組織横断チームで検討を重ね、アイデア創出から仮説検証、実証実験までの、事業創出に向けた一連の仕組みづくりや、それらを支える基盤としての人材の確保・育成の仕組み、グループ内のコミュニケーションツールなどの整備を行った。そして、2017年1月から、「KYUDEN i―PROJECT」として、九電グループのイノベーション推進が本格始動した。
 

トップがコミットしメッセージを発信し続ける。かつ、全社で取り組む

 

アイデア創出企画へマネージャー層から若手層まで多数参加

 「KYUDEN i―PROJECT」の目的は、新たな収益の柱となる未来の事業を創出することである。加えて、持続的に事業創出を続けていくための基盤となる人材の育成や組織風土の醸成にも注力している。

 昨今、新型コロナウイルス感染拡大やデジタルトランスフォーメーション(DX)などにより、人々の価値観が多様化するなど変化が激しい中において、今後も九電グループがお客さまから必要とされる存在であり続けるためには、新たな事業やサービスを継続的に生み出すことで新たな価値を提供し続け、九州からアジア、そして世界の発展・成長につなげていくことが必要である。「KYUDEN i―PROJECT」は、単なる新規事業開発にとどまらない、イノベーションを起点とする「未来の事業」を創出する企業変革プログラムである。

 「KYUDEN i―PROJECT」の特徴は、大きく2つある。一つ目は経営トップがプロジェクトのスポンサーとなり、イノベーションの推進にコミットすること、二つ目は「KYUDEN i―PROJECT」と並行して、各組織においても自律的にイノベーションにチャレンジし、「KYUDEN i―PROJECT」と連携しながら全社的に進めていくことである。

 一つ目については、経営トップが「九電グループ一体となってイノベーションを推進する」というメッセージを発信し続けることにより、若手社員から管理職まで幅広い層に認知されるようになった。自分も参加したい、もしくは若手に経験させたいというモチベーションにつながり、これまでに延べ760人が参加している。

 二つ目については、「KYUDEN i―PROJECT」の対象案件を「組織横断で取り組むべき案件」や、「実験的要素が強い案件」、「戦略的に『KYUDEN i―PROJECT』で取り組むべき案件」とし、各組織がそれぞれの強みを生かして自律的に取り組む案件と両輪で進めていることである。特定の組織だけがイノベーションを推進するのではなく、全社的な底上げにつながる仕組みとしている。
 

7件が事業化へ

 
 「KYUDEN i―PROJECT」における事業創出の仕組みは、3つの要素で構成される。(1)アイデア創出フェーズ、(2)事業化・サービス化の検討フェーズ、(3)これらの取り組みを下支えする基盤の整備――である。この仕組みの下、開始から3年が経過し、7件が事業化・サービス化に至っている。検討終了した案件も含めて、実行ノウハウの蓄積が進んでおり、小さく試して学習し素早く検証する行動様式が定着している。次回は、アイデア創出の取り組みの一つである「i―Challenge」について解説する。

電気新聞2020年8月17日