JERAは1日、火力発電所の運営に関する「デジタル発電所ビジョン」を策定したと発表した。トヨタ生産方式の思想を取り入れた「Kaizen活動」や、これまで蓄積してきた技術力とデジタル技術を組み合わせ、JERA独自のO&M(運営・保守)のさらなる高度化を目指す。同社の試算では、デジタル発電所となった石炭火力(65万キロワット×2基)を40年間運転した場合、約550億円の運転費用削減を見込んでいる。

 約550億円の内訳は、予知保全によるメンテナンス最適化で約250億円、熱効率の向上で約300億円となっている。JERAは、同日付でO&M・エンジニアリング本部内に「デジタルパワープラント推進室」を設置し、16人体制で業務を開始した。

 デジタル発電所は、(1)オペレーション(2)メンテナンス(3)性能管理――の業務が取り組みの主な対象になる。所内のあらゆるデータをつなげてリアルタイムで可視化・活用するデジタル技術を、深化を続けるKaizen活動やこれまで培ってきた技術力と掛け合わせ、新たな価値を創造していく。

 当面は、JERAの石炭とガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)の発電所のうち、それぞれモデル発電所を決めて展開。その後、2023年度までに国内のJERAの新設・既設発電所に対し、デジタル発電所をパッケージ化して適用していく。将来は、国内の他社火力や海外の発電所への外販なども視野に入れている。

 各分野の具体的な取り組みとして、オペレーションでは発電所のパフォーマンスやKPI(重要業績評価指標)をリアルタイムに確認できるようにし、迅速な意思決定につなげる。また、巡視の遠隔化・自動化、記録のデジタル化を進め、業務の非効率を解消する。

 メンテナンスでは、設備信頼性の維持とコスト削減を人工知能(AI)で実現する。市場や需要の動向を予測し、最適な停止計画のスケジュールを組む。また、予防保全から予知保全へシフトすることで停止期間を短縮し、稼働率のさらなる向上を目指す。

 一方、性能管理ではデジタルツイン技術により、サイバー空間で発電所を再現。様々なシミュレーションなどを通じ、AIが収支に直結する発電効率の向上策をリアルタイムで提供する。さらに、所内で使用する化学薬品や電力の量を最適化し、二酸化炭素(CO2)排出量やコストの削減につなげる。

電気新聞2020年10月2日