ブロックチェーンは「改ざん不可」、「プロセスの自動化」、「管理者不在」などの特徴を有する非中央集権型の分散台帳技術であり、電力分野においては、電力のP2P(ピア・ツー・ピア)取引や非化石価値取引などの分野などへの適用検討が進んでいる。北海道電力では地域に根差した電力会社として、地域活性化等の観点からブロックチェーンの適用可能性やユースケースについての検討を行っており、今回から3回にわたり、当社の取り組みなどを紹介する。
 

価値のインターネットを使って解決したい課題とは?

 
 インターネットが場所や時間を問わず情報に自由にアクセスできるのと同様、ブロックチェーンは広義の「価値」資産を自由に活用することが可能な「価値のインターネット」とも呼ばれており、身近な生活課題の解決から新たな社会システムの構築など、様々な可能性を秘めている。

 北海道は「広域分散型社会(広大な土地に都市や町が分散)」、「積雪寒冷地」と言った地域特性を有しており、不利な側面はあるものの、豊かな自然資源の恩恵と相まって北海道の多様な魅力を形成する要因でもある。一方、昨今の「人口減少・少子高齢化」、「脱炭素化」の外部環境変化は、地域のデメリットを拡大し、様々な課題を顕在化させている。

 適切な対策がなければ、北海道では人口減少などに伴う経済活動の衰退により、2050年には札幌を中心とする道央圏以外の地域では非居住地化が大きく進むものと危惧される。また、冬季間の暖房需要が多く、交通の移動距離が長いことから、人口・GDP当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が他地域より大きく、脱炭素化への対応も重要である。北海道は日本の課題を10年先取りしている「課題先進地域」と呼ばれている。このため将来の地域課題解決に向けては、これまでにない新たな取り組みが求められる。
 

シェアリングエコノミー的発想でライフラインを再定義する

 
 最近、北海道では地域の分散型電源(太陽光、風力、バイオマスなど)を活用した、地域マイクログリッド構築や地域エネルギー会社設立に向けた動きが活発化しており、エネルギーの地産地消の流れが加速している。これはエネルギーに限った話ではなく、急激な環境変化と急速なテクノロジーの進化を背景に、今後、地域においては従来の中央集権的な仕組みから、それぞれが工夫できる自立分散型への移行が進むものと考えられる。

 地域の存続にはライフラインインフラ(電力、ガス、上下水道、交通、物流など)の維持が欠かせないが、将来の需要縮小要因によりインフラ維持がいずれ困難になることが懸念される。このため、従来の仕組みやリソースに加え、自治体、企業、個人が保有するリソース(ヒト、モノ、カネ、情報)を広義の公共財として捉え、シェアリングエコノミー的発想でライフラインインフラの在り方を再定義することは重要だと考える。

 ブロックチェーンの仕組みを用い、大勢の参加者によって成立する信用をもとに公共財を定量的価値(トークン)として定義することで、将来的には地域内リソースの活用による効率化と、新たな市場創出による価値の創造など、自立分散型の新たな地域モデルや経済圏を構築できる可能性がある。

 次週第2回では、過疎地域の交通・エネルギーの課題解決に向けた、ブロックチェーンを活用した実証実験(ISOU PROJECT)の内容について紹介する。

【用語解説】
◆トークン
大勢の参加者によって成立する信用をもとにブロックチェーン上で発行される独自コインやポイントに類するもの。本記事では価値を定量化する手段として広義に捉えている。

◆シェアリングエコノミー
モノ・空間・移動・スキル・金・サービスなどを、多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組みや経済活動。

電気新聞2020年7月20日