国土交通省の北海道開発局と各地方整備局が、発電などの利水ダムを事前放流して下流の氾濫を防ぐ協定を、電力会社を含むダム管理者、河川管理者、関係利水者と締結した。昨年の台風19号を教訓に、豪雨に伴う水害の影響を抑える目的で水系ごとに洪水調節機能の強化を検討。既存の多目的ダムに加え、利水ダムの事前放流により洪水調節容量が増加する。国管理の全1級水系で協定が結ばれれば、洪水調節可能な容量が2倍近くに増加する見通しだ。

 協定は6月2日までに、北海道12水系(石狩川上流・下流を含む)、東北12水系、北陸11水系、中国12水系で締結。関東7水系、近畿10水系、九州19水系で関係者が協定に合意。中部は木曽川水系、豊川・矢作川水系で協定が合意された。

 北陸地方整備局管内では、1級水系ダム162地点で協定を締結。このうち東北電力、東京電力ホールディングス(HD)、北陸電力、関西電力、Jパワー(電源開発)の電力5社が管理するダム88地点(グループ会社含む)が対象となった。

 福島、新潟両県をまたぐ阿賀野川水系では、奥只見ダムが有効貯水容量4億5800万立方メートルの約27%に相当する1億2300万立方メートル、田子倉ダムが有効貯水容量3億7千万立方メートルの約39%に相当する1億4300万立方メートルを確保する。

 長野、新潟両県を流れる信濃川水系では東北電力、東京電力HD、Jパワーのダムが容量を確保。黒部川、神通川、庄川、手取川などの水系では関西電力、北陸電力、Jパワーのダムが協定対象となった。

 東北地方整備局管内は、多目的ダム63地点・10億8900万立方メートルに利水ダム85地点・4億8千万立方メートルが対象となり、洪水調節容量が従来比1.5倍となった。このうち東北電力グループは、阿武隈川、北上川、雄物川、最上川の4水系・12地点で協力している。

 中部地方整備局管内の木曽川水系は3億100万立方メートルの増量で従来比約2倍に、豊川・矢作川水系は2630万立方メートルの増量で同約2.7倍となる。木曽川水系では中部電力16地点、関西電力12地点のダムが含まれている。

 九州地方整備局管内は107地点の協定で従来比約1.5倍の2億7390万立方メートルとなる見込み。このうち、九州電力が小丸川や筑後川などの水系で17地点、Jパワーが球磨川水系の1地点で協力する。

 北海道開発局管内では、石狩川水系を中心に北海道電力が13地点、十勝川水系を中心にJパワーが6地点で協力。関東地方整備局管内は東電HDグループが、荒川、利根川、那珂川、相模川、富士川の水系で25地点を確保した。

 近畿地方整備局管内では新宮川水系で関電とJパワー、九頭竜川水系で北陸電力とJパワーが協力。中国地方整備局管内は中国電力の25地点が入る。

 国交省が定めたガイドラインによると、事前放流は、ダム上流域の予測降雨量がダムごとに定められた基準降雨量以上となる時に実施する。事前放流の実施判断は3日前から。予測総降雨量を基にダムの流入量を算出し、事前放流で確保する容量を設定した上で貯水位に換算。事前放流により設定容量分の貯水位を下げる。

 政府の「既存ダムの洪水調節容量強化に向けた検討会議」によると、9地方整備局の1級水系ダムは合計98水系・955地点。有効貯水容量約152億6314万立方メートルに対して、多目的ダムによる洪水調節容量は約45億8933万立方メートルと全体の30%程度。

 1級水系の利水ダムで事前放流に関する協定を締結した場合、新たに最大約43億6884万立方メートルが確保され、有効貯水容量の約59%の洪水調節が可能になる。

電気新聞2020年6月5日