昨年9月、台風15号により広域停電が発生した際には、東京電力が電気自動車(EV)などを千葉県内の拠点施設などに派遣した。災害時のEV活用に注目が集まっている

 災害発生時や大規模停電の際、被災地への電気自動車(EV)の派遣と外部給電器の提供を支援する一般社団法人「災害時電源等派遣互助協会(PAJ)」がこのほど発足した。自治体、企業、個人と連携し、EVと外部給電器を供給する広域ネットワークの構築を目指す。まずは自治体に対してPAJへの加入を働き掛ける。

 PAJは6月1日に設立。代表理事には前新潟市長の篠田昭氏が就任。理事には柏木孝夫(東京工業大学特命教授)、佐々木信夫(中央大学名誉教授)、余島義豊(元財務省四国財務局長)の3氏、監事には元東芝副社長の並木正夫氏が就いた。

 自治体が自動車メーカーや地元の販売ディーラーから災害時にEVを無償で貸与してもらう枠組みが全国で広まりつつある中、「販売ディーラーも被災し、EVを出せないリスクがある」と、PAJの平井竜一事務局長は指摘する。被災していない自治体、企業、個人から被災地にEVと外部給電器を届けられるようにすることがPAJの狙いであり、事業の特徴だ。

 PAJ自身は車両や設備を保有せず、自治体と派遣する企業側との調整役を担う。発災時、PAJは被災自治体の災害対策本部からの要請に基づき、EVと外部給電器を手配。避難所での給電状態をモニタリングするとともに、EVの追加派遣を判断する。

 派遣のタイミングはPAJが開発中のプログラムを使って最適な順序を決定。救援活動に参加した企業、個人に対しては救援を受けた自治体から後日、実費を支払ってもらうことを検討している。
 
 ◇平常時こそ重要
 
 1~10台の外部給電器を保有することが自治体のPAJへの加入条件。自治体にとっては全ての避難所に蓄電池や発電機を配備するのに比べれば対策費用を抑えつつ、広域的な支援を受けられる。PAJの本郷安史シニアアドバイザーは「ガソリン式の発電機(を配備する)より安全で費用対効果に優れている」とアピールする。

 PAJは平時も様々な活動を計画している。EVと外部給電器の派遣訓練や被災地での避難者到着、充電待ちなどに関するシミュレーションを実施。防災に関するシンポジウムも年1、2回開く予定だ。

 市民にEVや外部給電器に触れてもらうことを目的に、各種イベントの屋外設備や照明、出店の電気をEVから供給することも検討している。本郷氏は「平常時の活動こそ重要。災害時に支援するにしても、自治体や市民がEVや給電器の使用方法を知っているかどうかで差が出る」と強調する。
 
 ◇協力の輪広げる
 
 台風シーズンを控える中、PAJは「災害が起こった時に駆け付けられる体制を最低限整えておく」(平井事務局長)ことを今年度の目標に据える。連携先はあくまで自治体がメインだが、本郷氏は「経済産業省や国土交通省、電力会社などとも連携を取りながら活動していきたい」と協力の輪を広げたい考えだ。

電気新聞2020年7月8日