JERAが展開するストロベリーファーム

 社会の構造的変化により、これまで縁遠い存在であった異業種間のコラボレーションが数多く発生しつつある。エネルギー転換の成功は、異業種間の連携によりソリューションが提供され、社会の構造変化に対応できるか否かにかかっていると言えるのかもしれない。いずれにしても今、エネルギー事業者から注目されている事業分野の一つが農業だ。エネルギー事業者と地域の農業ベンチャーの協業も多くみられるなか、成功に向けて留意すべきポイントを考える。
 

植物工場ではエネルギーコストの圧縮が成否に影響

 
 エネルギー事業者は、地域と切り離しては存在し得ない。同じく地域産業である第一次産業との協業はごく自然な事であり、農業ベンチャーとのコラボレーションの事例が数年前から急速に増えてきている。

 九州電力は「グループ経営ビジョン」でスマート農業による地域振興を掲げているし、JERA(旧東京電力フュエル&パワー)は火力発電所構内でイチゴの生産から加工・販売まで行うエコファーム事業を手掛けている。四国電力も銀座千疋屋らとともに地域のイチゴ農家と提携し、農業法人を設立し地域の農業への貢献を打ち出している。これらはごく一例であり、関係会社の活動も含めれば、エネルギー事業者と農業ベンチャーのコラボレーションは枚挙にいとまがない。

 これらの事例はほぼ全て基本的には露地栽培ではなく、施設園芸あるいは植物工場と呼ばれる方式であり、温度や湿度といった環境コントロールが重要であるため、発電所などで培った制御技術が活かされる。また、平均すれば生産コストの20~30%程度はエネルギーであるので、エネルギーコストの圧縮はプロジェクトの成否に大きく影響する。エネルギーマネジメントの知見を持つ事業者と農業事業者のコラボレーションが進むのはある意味当然であると言えよう。
 

各地のプロジェクトが抱える課題とは

 
 大きなシナジーを持つことは明らかであるものの、プロジェクト単体で収支を確保することは簡単ではない。そもそも施設園芸では、大規模化して大量生産すれば商品1単位に占める設備費は小さくなるので、大型の生産設備を建設するケースが多い。しかし生産される商品は生ものなので、安定的な買い手を必要とする。大量購入と引き換えに売値を安価に抑えることを求められることもあるし、大口顧客を失えば一気にプロジェクトの成否が脅かされる。固定的にかかる物流費や人件費の負担も大きい。

 例えばレタスなどの葉物野菜は、需要が安定的に見込める作物の一つといえるが、嵩(かさ)が張るので、空気を運んでいるようなものだと苦笑する関係者もいる。大規模に生産して各地に配送するようなオペレーションにすると、収支が厳しくなってしまうのは当然だ。人件費について言えば、ある程度マニュアル化できる作業ではあるものの、大型化すればそれなりに習熟した作業員を複数確保しなければならない。地域に雇用を生むことが期待されるということは、安定的な人材確保という課題を抱え続けるということだ。農福連携や低コストでの自動化など、それぞれのプロジェクトで工夫を凝らす必要がある。

 大規模化を志向せず、小規模高付加価値の作物を生産するプロジェクトもある。光の波長を高度にコントロールしてレストランで提供される料理の特色に合わせた食味や歯応えを作り出したりすることも可能なので、飲食業などとの緊密なコラボレーションにより成長を続けているケースもある。大きくスケールすることは難しいかもしれないが、ストーリー性のある事業が期待できる。

 どのように勝負をするかは個々の判断だが、筆者がいまエネルギー事業と農業のコラボレーションを見ていて感じることは、誰にでもできるコストダウン努力を、誰にもできないほど徹底的にやるということの重要性である。
 

エネルギーと食の在り方の探求から、現代社会の課題解決を

 
 課題を多く指摘したものの、このコラボレーションへの期待は大きい。

 今後確実に人類は、食料危機、水問題、エネルギー供給、気候変動問題、都市への人口集中と言った課題に直面する。在来型農業は多くの土地を必要とし、実は環境負荷も大きいので、在来型農業に依存し続けることはできない。将来の社会を支えるエネルギーと食の在り方をつくり出せれば、先ほど挙げた課題の解決に貢献できる。

 公的な役割を担ってきたエネルギー事業者として、新たな事業へのチャレンジも、社会課題の解決を起点に考えてみて頂きたい。地域とともにあるエネルギー事業者ならではの事業が数多く生まれることを期待している。

電気新聞2020年4月6日

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