エネルギー業界のベンチャー投資が活況を呈している。全く異なる強みを持つ企業同士が手を組むことで、エネルギー事業の転換が進むことが期待される。しかし企業文化の違いも大きく、「結婚」にたどり着いたとしても、その後、成果を出し続けることは非常に難しい。大企業側の何気ない行動や言葉が相手を疲弊させてしまっている例もみられる。
2018年に創業したU3イノベーションズでは、大企業とベンチャーのマッチングの支援を手掛けている。エネルギー業界のエコシステムが豊かになるには、両者を取り持ち、伴走する仲介者が必要であり、その役割を引き受けたいと考えたからだ。大企業のベンチャー投資で見かける「無くて七癖」を指摘し、一つでも多くの幸せな「結婚」が生まれることに貢献したい。
企業文化の違いを超えて成果を得るための7つの「べからず」
◆その1 投資したのだから割引してほしい
「投資したリターンを社内に分かりやすく示したいから」という理由でのリクエスト。しかし貴社は投資によって、会社の「将来性」を買ったのであり、割引券を買ったわけではないはず。投資をしたリターンは、配当や株価の上昇によるキャピタルゲインがもたらすものであり、割引価格での提供はむしろ企業価値を毀損(きそん)してしまう本末転倒な行為。
「今回だけ特別に」「小さい話だから」という例外も無し。大企業の身体の大きさと、ベンチャーの身体の大きさは異なることに留意を。
◆その2 知財は全部、出資した当社で持ちたい
知的財産は事業の命そのもの。その知的財産を貴社が生かし切れるかを考えて。共同研究や実証事業でともに汗をかくパートナーに対して「とりあえず押さえておきたい」といったマインドでの発言はご法度。ベンチャー側からすると、これでは、一緒に苦労して新事業という「子ども」を産み出す気持ちになることはもちろん、可愛い「我が子」を手放すこともできないだろう。
◆その3 契約書式は大企業側の方式で
契約は双方の合意で成り立つもの。書式についても相手の意向を確認したい。自社書式を使えば、社内の契約部門との調整はしやすいであろうが、社内調整程度で楽をしたがる相手と、今後の規制機関や関係事業者、顧客との難しい調整を共にできるだろうかと不安を抱かせてしまいかねない。なお、相手が自分のところで作成するのは難しい、という場合は話は別。
◆その4 社内の承認を取るので数カ月待ってほしい
大企業の3カ月は、スタートアップの3年に相当する長さ。相手の機動力を奪わないよう、意思決定はとにかく早く。長いミーティングの最後に「社に持ち帰って検討する」と言われると、相手方には「決められない立場の人だ」という印象が残る可能性も。
打ち合わせなどで相手の時間を取ることにもくれぐれも慎重に。ベンチャーは人的リソースが十分ではない場合が多く、進展のない現場視察や打ち合わせを数多く求められると、それだけで疲弊してしまうもの。
◆その5 当部門はOKだが他部門からNGが出た
社内のコンセンサスは先に取り付ること。「これは個人的な見解ですが」もよく聞くが、大事なのは会社の意思決定。
◆その6 せっかくだから大きく始めたい
新しい事業はトライ&エラーの積み重ね。エネルギー事業者の性として、規模の経済を追い掛けたい、完成形のビジネスを目指したいという気持ちは抑え、新規事業の肝である機動力と修正力を磨くべし。
◆その7 エネルギー業界の専門用語を多用する
業界内の専門用語を多用することは、悪気はなくても、相手に疎外感を与えるもの。これからは業種を超えたコラボレーションが必要な時。せっかくこの産業に興味を持ってくれた人たちが遠ざかっていかないように、会話の中での言葉遣いから配慮を。
悪魔は細部に宿る。相手に敬意を払うべし
ささいな言葉尻で揚げ足取りをしているように受け取られたかもしれない。ご不快に思われた方にはおわびしたいが、「悪魔は細部に宿る」のも事実。大企業の側の何気ない行動や発言がスタートアップの方たちの気持ちに大きな影響を与えることもある。
生まれも育ちも全く違う相手と事業をスタートさせるのであれば、まず、相手に対して敬意を持つことが成功の第一歩だ。
これからエネルギー産業に多くの新規参入を得て、エコシステムが豊かになっていくことを期待したい。
電気新聞2020年3月30日