関東電気保安協会は、世界各国の電気設備に関わる保安体制を紹介する新刊「海外における電気需要設備の保安制度」をまとめ、日本電気協会新聞部で発行した。海外の電気保安制度に関する資料や文献がほとんどないことから、国際電気保安連盟(FISUEL)会合資料や関係団体との意見交換を基に資料を収集。2013年からおよそ7年の歳月をかけ、1冊にまとめた。海外の電気設備に対する保安の法制度や事故の現状を網羅する。

 世界で電気火災が多い国は、実は欧米諸国だった――。同書に収められたデータにより浮かび上がった事実は意外なものだった。

 欧州銅協会がまとめた人口100万人あたりの住宅・非住宅建物の年間電気火災件数によると、英国が450件超、オーストラリア、ドイツ、フランスが350~400件程度、他の欧米諸国が200件以上と続く。一方の日本は20件程度。築100年以上の建物が多い欧州諸国では、老朽化した屋内配線の保守・改修が適切に行われていないケースが多いという。

 また、海外で感電死亡事故が多発している現状も示された。特にインドは年間1万件と多い。設備・施工不良だけでなく「盗電」が多いからではないかと推測され、定期点検の重要さがよく分かる。

 同書からもう一点把握できるのは、海外の電気保安制度の成立した背景が、日本のような電気事業の観点に基づいていない点だ。

 電気火災や感電事故を鑑み各国の電気保安に関して整備した制度は、建築や防災、労働安全の法令を根拠としたものが多い。建築物の竣工時には設備点検があるものの、既存設備の定期点検については需要家側の判断に委ねられるケースが大半。電気事業者が点検義務を負っている国は少ない。波及事故に関する統計が海外にはないなど、各国の保安制度は電力の安定供給を主眼としておらず、日本の制度の独自性がかえって際立っている。

 同書を執筆、編さんした本多隆氏は元関東保安協常務理事で、現在は電気保安協会全国連絡会事務局長を務める。以前にも全国連絡会に勤務経験があり、FISUELを通じて海外の保安制度や電気事故の現状を知った。

 「知り得た情報を生かして何かまとまったものを作らないと、もったいない」と、本多氏は考えた。そもそも全国連絡会がFISUELに加盟したのは、国内の保安事業に従事するが海外事情に触れる機会がなかったためだ。需要家設備がある以上、どの国でも電気の保守・点検に関する仕事や制度があるはずだが、事情に詳しい人はいなかった。

 FISUELで得た各国の資料や会議参加者との意見交換を基に、ネットなども駆使して各国の法制度を深掘りした。約100カ国・地域の保安制度を網羅した。用語の表記統一に時間を割き、今年発行を迎えた。

 先進国だけでなく発展途上国の制度も集めた。具体的な取り組み内容に違いはあれど、先進国だけでなく「どの国でも同じ目標(電気保安の確保)を持って制度やルールを定めており、参考になる」(本多氏)という。

 民間レベルの協約のみで電気保安が維持される国がある一方、国が厳しい罰則を設けていながらルールがほとんど守られていない国もあるなど、各国の比較も興味深い。日本にはない、設計段階で規制を設ける国・地域もあるなど、我が国の制度を振り返るきっかけにもなりそうだ。

 本編と資料編の2部構成で全544ページ。価格は1冊4千円(税別)。3月30日に販売開始し、4月から書店流通を始める。初版は300部。100部を関係機関に寄贈し、200部を販売する。

電気新聞2020年4月7日