第1回で人工知能(AI)は取得したデータを基に分析・運用して予測精度を向上させるため、データを取得できる環境が必要であることを説明した。DeNAではタクシー配車アプリ「MOV」などを展開しており、データを取得できる環境を構築している。これらデータを基にAIを活用して需給予測や交通事故削減支援サービスを提供しタクシー会社などの支援を行っている。このようにオートモーティブ分野ではAIの社会実装が進んでいる。
 

カメラやセンサー、GPSの情報から安全運転教育も

 

道路レベルでの需要予測結果の一例

 DeNAではタクシー配車アプリ「MOV」を展開しているが、昨年12月よりAIを活用してタクシーの需給予測を行う乗務員向けサービス「お客様探索ナビ」の提供を開始した。

ナビ画面

 「お客様探索ナビ」は、AIが運行中のタクシーから収集するプローブデータ(自動車の走行位置情報や速度情報などを用いて生成された道路交通情報)を解析して需要予測を行い、需要予測結果とタクシーの供給力を複合的に解析して車両ごとに最適経路を算出する仕組みである。タクシーの供給力を鑑みた最適化を行うことで、タクシー乗務員は効率的にお客さまを探し、お客さまは街中でより早くタクシーを捕まえることができるようになった。

 このサービスの特徴はUI(ユーザーインターフェース)を重視した点である。ナビゲーションシステムは多くのドライバーが使い慣れている。ナビ上で最適経路を提案して需要が見込まれる地域まで誘導することで、新人乗務員でも非常に扱いやすく、ナビに従って走行するだけで一定の収益を期待できる。

 タクシー業界では乗務員不足が課題になっているが、弊社では「お客様探索ナビ」を活用することにより、乗務員不足解消に貢献できるのではないかと考えている。

 その他、DeNAでは商用車(タクシー会社や運送会社など)向けに、AIを活用した事故削減支援サービス「DRIVE CHART」を提供している。これはAIを活用し、ヒューマンエラーに起因する事故の削減を支援するサービスである。

 本サービスの展開に当たり、DeNAはメーカーと共同で専用の車載端末を開発した。この端末にはカメラ、加速度センサー、GPSなどが搭載されている。車内外カメラの映像と加速度センサー、GPSの情報をAIで複合的に解析して、車間距離やドライバーの顔の向きを検知、脇見運転などの危険運転を判定する。この分析結果をドライバーや企業の管理者にレポートし、安全運転教育などに役立てる仕組みだ。

 実証実験ではタクシー25%、トラック48%の事故率改善がみられた。今後は一般ドライバー向けのユースケースも探っていきたいと考えている。これら技術は、現在はモビリティー事業のみに活用しているが、将来的には電気事業への応用も考えられる。
 

EVによる充電需要の増加も、AIで最適化

 

 電気自動車(EV)の導入拡大に積極的な欧州、特に英国では、政府が2035年にガソリン車とディーゼル車を販売禁止とする計画を打ち出しており、既に英国における新車販売の4%をEVが占めている。National Grid ESOが毎年公表している「Future Energy Scenario」では、EVの導入拡大により最大需要電力が極端に増加する予測結果が示されている。また、DNO(配電事業者)ではEVの充電需要の増加に伴う配電設備容量の不足が懸念されている。

 今回紹介したオートモーティブ分野で展開しているサービスでは多くの車両情報を取得・解析できる。仮に配電設備情報を取得できれば、AIを用いて車両情報と複合的に解析し、最適化された分析結果を基に車両のナビゲーションに対して経路指示や充電指示・制御を行うことで配電設備容量不足の課題を解消することもできるだろう。

 DeNAでは、様々な事業で培ったAI技術を活用してインフラ事業の課題を解決していきたいと考えている。次回は海外の電力事業におけるAIの活用事例やDeNAのエネルギー事業の目指す姿を紹介したい。

電気新聞2020年3月16日