少子高齢化社会を迎えるに当たり労働人口の減少が予想されており、特に製造業では技術継承が課題になっている。また、昨今の激しい事業環境変化に対し、データを活用した運用改善・効率化という、これまでと異なる最適な打ち手を導き出す必要性が高まっている。これらを背景に電力業界でもAIを活用する動きが広がっている。今回は、当社が関西電力と共同で実施している石炭火力発電所における燃料運用の最適化について紹介したい。
 

スケジュールの作成が半日から短時間に。複数パターンの比較検討も

 
 DeNAと関西電力は、2019年2月に石炭火力発電所の燃料運用最適化を行うAIソリューションの共同開発などに関して基本合意した。

 石炭火力発電所では、石炭輸送船から受け入れた石炭を貯炭場やサイロに一旦貯蔵し、その後、給炭機でボイラーに投入して発電しているが、石炭の種類によって混載や混焼ができないなどの制約が存在する。燃料の運用に当たっては、これら制約を考慮し、石炭輸送船の入港スケジュール、複数のバース、貯炭場・サイロ、ボイラーについて、それぞれの運用計画を作成する必要がある。

 これまでは、熟練技術者が自身の経験や独自のノウハウに基づいて、運用制約を考慮しながら貯炭場やボイラーの運用スケジュールを作成し、状況変化に応じて、その都度見直しながら運用してきた。

 今回のAIソリューションは、このスケジュールの作成を最適化するシステムだ。関西電力が設定した課題や運用条件に基づき、DeNAが構築したアルゴリズムを用いて開発している。

 これにより、従来、半日程度かけて作成していたスケジュールを短時間で作成できるようになり、複数パターンの比較検討が可能になった。より細かなスケジューリングを行うことで、燃料運用計画業務の高度化・省力化を実現することが可能になる。

 DeNAではこのアルゴリズム開発に、前回紹介したオセロや囲碁、将棋、チェスといったボードゲームで活用されるゲームAI技術を応用している。

 石炭火力発電所における燃料運用は、条件が極めて複雑であるため、スケジュールのパターンが膨大になり、その中から優れたスケジュールを効率よく見つけ出す必要がある。ボードゲームも打ち手が非常に多く、効率よく打ち手の候補を絞り込んでいく必要がある。このように、両者のアプローチが大変似ていたため、応用が可能であった。


 

経営課題・現場の課題をしっかり把握することが重要

 
 デジタル技術を活用するに当たってよくある誤りは、「ソリューション(解決策)ありき」で考えることである。

 デジタル化の過程において、本来は経営課題や現場の課題を特定し、課題に合ったソリューションを特定すべきである。しかし「経営層から『AIを活用せよ』といった指示が出された。何かAIを活用できる取り組みはないか」といった、目的と手段が入れ替わっている話がよく散見される。これでは課題解決につながらず、そのプロジェクトは大抵失敗してしまう。まずは経営課題や現場の課題を特定した上で、データサイエンティストによるソリューションの検討が必要だ。

 関西電力とのプロジェクトにおいて、DeNAでは3人のデータサイエンティストがチャットツールを用いて、発電所における運用の現状を正確に洗い出した。これには、ユーザーである電力会社との緊密な連携が欠かせない。デジタル技術を活用する上で、開発側とユーザー側が一丸になって信頼関係を醸成しプロジェクトを遂行することが大変重要である。
 

「人智を超える一手」の可能性も

 
 囲碁やチェスにおけるAI対人間の対戦において、AIは人間では考えられないような一手を出してくることがある。AIを活用することで、最適化レベルの向上や省力化といった導入目的を超える成果を得られる可能性があるともいえる。

 次回はDeNAのオートモーティブ事業における取り組みを紹介する。

電気新聞2020年3月9日