経済産業省は、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)を活用した電力・ガス分野などへの「スマート保安」の実装を加速させる。早ければ5月中旬にも官民トップによる協議会を立ち上げ、規制の見直しや技術導入の設計といった具体的な検討に着手する。協議会の下には分野別の部会も設け、デジタル技術の促進に向けたロードマップをつくる。

 名称は「スマート保安官民協議会」で、経産相のほか、経産省の産業保安グループ、製造産業局、資源エネルギー庁などの局長級と、保安に関係する業界団体のトップで構成。電力分野からは電気事業連合会、電気保安協会などが参加する予定。有識者や消費者団体は加わらない方向だ。

 協議会の下部には、それぞれの分野に特化した実務者レベルの部会を置く。現時点で「電力安全部会」と「高圧ガス保安部会」を設置する方針が固まっているという。部会では協議会で定める基本方針に沿って、デジタル技術の導入に関するロードマップを作成。議論の進捗は協議会が管理する仕組みだ。

 協議会は年1回程度開く。部会はテーマによって差異はあるものの、3~5回程度を想定する。期間は区切らず、成果は産業構造審議会(経産相の諮問機関)の保安・消費生活用製品安全分科会や小委員会に適宜報告・諮問し、具体的な施策に落とし込む。

 協議会ではドローンを検査規格に位置付けたり、設備の遠隔監視によって保安業務を高度化・効率化させるための規制・制度の見直しを検討する。スマート保安の導入を後押しするための優良事例の水平展開、表彰制度の創設などもテーマの一つ。AIの信頼性評価が未確立な現状を踏まえ、ガイドラインの制定についても俎上に載せたい考えだ。

 設備の高経年化やベテラン職員の退職によってスマート保安の重要性は認識されているものの、投資は思うように進んでいない。高経年化によって点検の頻度・範囲は広がる一方、その負担への対応が追いついていないことに加え、投資の初期段階で効果を見極めづらく、規制の見直しに時間がかかっていることなども一因だ。

 協議会では、こうした課題を洗い出すとともに、デジタル技術の動向や事業者ニーズをきめ細かく把握。官民が方向性を共有し、実装を加速させる。

 経産省では、これまでも法規制の合理化を図り、産業保安のスマート化に取り組んできた。例えば、石油・化学プラントなどを対象とした「スーパー認定事業所」のほか、高度な保安力を持つ火力発電所にも運転期間の延長を認めるなど、インセンティブ制度を充実させている。

電気新聞2020年3月27日