関電工が日立から株式40%を取得したPHPCが入るビルの外観
関電工が日立から株式40%を取得したPHPCが入るビルの外観

 国内建設市場の成熟化を見据え、電気設備工事各社が社会インフラや都市開発などへの投資拡大が見込まれる東南アジア地域への進出を加速している。各社は数十年前から東南アジアに進出する日系企業からの請負工事を手掛けてきた。最近では現地の工事会社に出資して人材や現地企業発注の工事案件を確保し、よりスピード感を持って市場を開拓しようとする動きが目立ってきている。

 トーエネックは今月3日、タイで電気設備工事などを手掛けるトライエンへの出資を発表した。海外企業への出資は初めての案件。トーエネックはタイに現地法人のトーエネックタイランドを持ち、主に日系企業の工場を対象に電気・空調管工事を行っている。

 トライエンは宿泊施設の施工で豊富な実績を持つため、トーエネックは「トーエネックタイランドの得意分野と重ならず、互いの相乗効果が期待できる」と説明する。出資後はトーエネックタイランドの機能や人材をトライエンに移管・清算する予定だ。

 関電工も今月9日、フィリピンで電気・空調・衛生設備工事を手掛けるPHPCへの出資を発表した。PHPCに40%出資する日立製作所から株式譲渡の打診を受け、海外法人に対するM&A(企業の合併・買収)を関電工として初めて選択した。

 関電工にとって未開の地だったフィリピン。駐在事務所の設置による進出も検討したが、「事業整備だけでなく、人材確保、顧客獲得が一気にできたことは非常に大きい」と、森戸義美社長は喜ぶ。
 
 ◇厳しい競争環境
 
 電力系の電気工事会社では、九電工が13年にシンガポールのプラントエンジニアリング会社のアペコ、中電工が17年にシンガポールの電気工事会社のRYBエンジニアリングを子会社化した実績がある。

 建設需要がある東南アジアだが、「競争環境はむしろ国内以上に厳しい」(森戸社長)。電力系に限らず、協和エクシオ、サンテックなどの電気工事会社も現地法人の設立や海外法人への出資を進め、東南アジア事業を強化している。

 また、国によって事情は異なるものの、「電気・空調・衛生の一体(での応札)が求められる」(電気工事会社)という要因もある。ゼネコンや新菱冷熱工業、高砂熱学工業などの空調工事会社、中国や韓国の工事会社、もちろん現地企業も競合他社となっている。
 
 ◇人材も現地確保
 
 工事の担い手が不足しつつあることも課題だ。国内での手持ち工事が積み上がっている電気工事各社が海外に要員を送り込むには限界がある。関電工がPHPCに出資したのも、海外事業に必要なエンジニアや技能職の育成拠点、人材派遣の拠点として活用するためだ。

 人手不足で悩む日本へ、現地で育てた人材を派遣すればいいのではと思われそうだが、現状、外国人技能実習生制度や在留資格「特定技能」の対象職種に電気工事が含まれていないため、実現は難しい。同社はフィリピンで育てた人材を、開発案件が豊富なシンガポールなどに施工部隊として振り向ける考えを示す。

 東南アジアで事業を展開する非電力系の電気工事会社幹部は「採算性を確保するには、現地の人を活用しなければならない」と強調する。現地で人材を育成し、施工体制を整えることは日本で培ってきた高品質の技術を現地相応の価格で提供することにつながる。

 日本電設工業協会が特定技能に「電工」を追加する検討を進めるなど、外国人技能者の受け入れに向けた機運は高まりつつある。将来的には日本への人材派遣もあり得るが、まずは東南アジアでの競争力を確保するため、海外現地法人の出資や買収が大きな足掛かりになるといえそうだ。

電気新聞2019年12月23日