系統と調和する再エネ導入を目指し、電気と給湯のアズ・ア・サービスを沖縄で展開する比嘉直人社長
系統と調和する再エネ導入を目指し、電気と給湯のアズ・ア・サービスを沖縄で展開する比嘉直人社長

 変動性ある再生可能エネルギーをいかにして使いこなすか。すぐにグリッドの拡充や蓄電池の新規導入が議論されるが、そうした「再エネを使いこなすためのコスト」をできる限り低減しなければ消費者負担は増すばかりとなる。既存の系統や蓄エネルギー技術を有効活用し、新規投資は費用対効果を検証しながら進めるべきことは言うまでもない。連載最後の今回は、家庭用のヒートポンプ式給湯機(以下、エコキュート)をコントロールすることで、再エネと共存する電力供給を目指すネクステムズを紹介したい。
 

蓄エネのピークシフト能力は約190万kW

 
 再エネの導入量を拡大するには、まず再エネの経済性が改善することが大前提であるが、その上で、変動性ある再エネをうまく使いこなしていかねばならない。柔軟性(調整力)と、広域で利用するためのネットワーク容量をできるだけ安価で確保することが必要になる。「うまく使いこなすためのコスト」も含めて、消費者負担が無駄に膨らむことがないよう、費用対効果の高い施策から優先的に進めるべきであることは論を待たない。

 柔軟性を提供する蓄エネルギー技術として揚水発電やバッテリーが注目されているが、実は、見過ごされている存在がある。例えば、1990年代後半に業務用施設に導入された氷蓄熱式空調システムや水蓄熱式空調システムだ。11年度末のストックベースのデータであるが、蓄熱式空調システムによるピークシフト能力は、約190万キロワットあるという(蓄熱・ヒートポンプセンター調べ)。

 さらに分散型で身近な蓄エネ設備が家庭用自然冷媒ヒートポンプ給湯機、いわゆるエコキュートだ。家庭における電化の肝として導入が進められ、18年7月には累計出荷台数600万台を超えたことが日本冷凍空調工業会から公表されている。一般的なエコキュートの消費電力は1キロワット程度であり、3時間程度で沸き上げるとすると、1800万キロワット時程度の蓄エネルギー技術が我が国には既に導入されていることになる。

 これを調整力として活用するモデルは、コストやコントロール性の点でまだ課題があるが、コストについて言えば、エネルギー供給コストの高い離島などにおいてはメリットが出やすい。蓄エネルギー機器が普及すれば、負荷率を向上させ従来型電源の単価を引き下げることが可能になると同時に、運用次第では再エネをより多く有効活用することが可能になる。
 

太陽光とエコキュートを無料設置し、電気やお湯を提供する

 
 この点に注目して沖縄県宮古島で実証事業を重ねているのが、ネクステムズだ。子会社の宮古島未来エネルギーが各家庭の屋根に太陽光発電のパネルを設置し、エコキュートも無料で設置した上で、導入された各家庭に電気やお湯を有料で供給していく事業を展開している。18年度は同市の市営住宅40棟に約1200キロワットの太陽光発電と120台のエコキュートを導入した。

 ネクステムズはそこに、エコキュートの制御指令のプログラミング、適切な機器稼働タイムシフトの検討(需要家間の公平性の担保など)、制御のための通信コスト低減に向けた仕様設定など、様々な検討を行う実証事業に取り組んでいることだろう。機器設置の初期費用については、環境省からの助成金によって賄われてきたが、低コスト化に地道に取り組み、エコキュート1台当たりの導入コストを、施工費込みで約20万~25万円程度にまで低減しつつあることもあり、早晩、公的補助から卒業できると期待できる。

ネクステムズは様々なメーカーのエコキュートを使い、動作検証を行った
ネクステムズは様々なメーカーのエコキュートを使い、動作検証を行った

 エコキュートは省エネ性が高いので消費者に対するメリットを生みやすいものの、従来型のエネルギー利用を排除する形で事業を進めれば地域であつれきを生む。これまで地域のエネルギーを支えてきた従来型事業者に、新たな商材・ビジネスモデルによって引き続き地域のエネルギーマネジメントの担い手となってもらうことを積極的に呼び掛けていることも、この事業の展開力に期待する要因の一つである。
 

本州でも可能性

 
 現在は離島での事業化を進めている段階だが、今後、本州の山間地域など過疎化が進む地域は、いわば離島の集合体となっていく。日本は実は「蓄エネ大国」であり、既に導入されている蓄エネ技術を使い倒せば、Utility3.0の実現が近づく可能性が高い。分散型技術を活用して、地域のエネルギーマネジメント全体を考える核となる事業者の一つとして、ネクステムズに高い期待を寄せている。

電気新聞2019年10月28日