FITの導入により、我が国の太陽光発電は急速に拡大した。しかし、国民の負担する賦課金によって年間2兆円を超える補助が行われていながら、我が国の太陽光発電産業が健全に育っているとは言い難い。2050年に80%のCO2削減を真剣に進めるのであれば、原子力発電所の再稼働などの状況いかんにかかわらず、再生可能エネルギーを最大限導入する必要があり、それを支える産業の健全なエコシステムの構築が急がれている。今回は筆者が注目する太陽光発電事業者として、ネクストエナジー・アンド・リソース(以下、ネクストエナジー)を紹介する。

 

メンテも含め総合的に太陽光のコストを下げる

 
 ネクストエナジーは、電力事業者に一定割合の電気調達を義務付けたRPSが導入された2003年に創業された。太陽光発電が拡大すればパネルのリユースが必要になるとして、パネルの診断技術確立に取り組んだという。ここ数年パネルの価格下落が急速に進んだために、中古パネルのリユース事業は現在縮小しているが、累計5万枚を超えるパネルを診断し、蓄積したデータは大きな強みと言えるだろう。その後、状況に合わせて注力すべき事業をピボットしながら、架台の設置や効率的なO&Mなど、太陽光発電に関わるほぼ全ての事業においてコスト競争力と技術力を高めてきたのである。

図_NERの既存事業ポートフォリオ_4c
 太陽光や風力といった再エネの導入拡大が叫ばれながらもそれが難しかった理由は、大きく言えば2つある。一つはコスト、もう一つは変動性だ。

 前者のコストについて、セルの値段は急速に下落していることはご承知の通りだ。我が国の太陽光発電のコストを下げていくにはここからさらに、流通コストの削減や設置の標準化・効率化、メンテナンスコストの適正化などを丁寧に実施していく必要があるが、ここにネクストエナジーが蓄積してきた技術力とコスト競争力が貢献する余地は大きいと筆者は期待している。
 

BCP用の蓄電池制御研究と、導入コストの低減も

 
 さらに、後者の変動性を克服に向けたチャレンジも始まっている。従来から同社は、全国に持つ販売店網を通じて太陽光発電だけでなく蓄電池も取り扱ってきたが、それは主にBCP用途であった。その蓄電池を束ねてコントロールできれば、系統に負荷をかけない分散型エネルギー社会の実現が見えてくる。

 バッテリーを高速でコントロールする技術の研究開発に取り組むとともに、まずはそうした分散型蓄エネ技術を普及させるべく、今年7月には世界最大の蓄電池生産を誇るCATLとの業務提携を発表した。安価なセルを安定的に調達することが可能になるだけでなく、まずはTPOモデルとして施工・設置などターンキーでのコスト低減を進める計画だ。

 CATLとの業務提携を発表した記者会見において、伊藤社長が掲げた「蓄電池のトータル導入コストが4分の1になり、調整可能な電源のコストが3分の2になれば、エネルギーの大転換が実現する」という目標は、太陽光発電を責任ある電源にしていくという決意の表れであり、多くの太陽光発電事業関係者の心を揺さぶったと感じている。
 

太陽光発電の健全な産業化へ役割大きく

 
 本コラムでも度々取り上げられている通り、2050年に80%のCO2排出削減を目指すのであれば、需要の電化を進め、合わせて電源を低炭素化するという掛け算が必要になる。再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、中でも期待されるのが太陽光と風力であることはご存じの通りだ。現状から50年まで定率で市場成長するとした場合、30年頃の太陽光は1億キロワット程度まで増加していることが期待される。

 太陽光と風力は同じく分散型かつ変動電源であるが、太陽光はより分散的であり地域資源として活用しやすい。そうした特性もあってFIT導入後、太陽光は急速に拡大したが、逆に身近であるだけにむしろ地域社会とあつれきを生じてしまっている事例も多い。

 筆者が懸念する将来の成り行きシナリオは、急増した太陽光発電の多くが、適切な保全を行うことなく、社会問題を引き起こし、迷惑設備としての認知が固定化してしまうことだ。台風や豪雨などに耐えられず土砂災害を引き起こす野立ての太陽光が増加したり、屋根置き太陽光が空き家問題とも相まって火災などを引き起こせば、太陽光発電が価値ある資産として評価されなくなるのではないか。そうなれば、再投資、新規投資ともに困難になってしまい、再エネの主力電源化どころではなく、ストックベースで減少していくようなことにもなりかねない。FITに踊ることなく太陽光発電の健全な産業化に取り組んできた同社の役割は、これからますます大きくだろう。

電気新聞2019年10月21日