JEC2019では19のスタートアップ企業がプレゼンを行った
JEC2019では19のスタートアップ企業がプレゼンを行った

 欧米に比べると層が薄いとされるが、我が国でも電力市場の自由化や再生可能エネルギーの普及、デジタル技術の進歩によって様々なベンチャー企業が現れてきた。これから本稿では、3回にわたり、筆者が注目するエネルギー・ベンチャーをご紹介したい。今回は、電気料金の比較サイトや、法人電力契約の一括見積もりサービスなど自由化市場の活性化事業や、ケンブリッジ・エナジーデータ・ラボで培ったデータ解析技術を核としてデジタル化事業に取り組むENECHANGEに注目する。
 

小売り電気事業者の情報窓口として、消費者から頼られる存在に

 
 東日本大震災と福島原子力事故をきっかけに創業したエネルギー・ベンチャーは数多く存在する。ENECHANGEもその一つであるが、そのルーツが英国ケンブリッジ大学での研究活動にあり、膨大なエネルギーデータの解析技術を有すること、多国籍の経営メンバーが有するグローバルなネットワークなどに強みを持つ点がユニークである。

 同社の事業の中で消費者に最も広く認知されているのは、家庭向けの電気料金比較サイトの運営であろう。我が国で電力小売りが全面自由化する2年前の2014年4月に、いち早く電気料金比較サイトを立ち上げ、16年4月の全面自由化に先立つ同年1月には、スイッチングを含めた比較サイトを開始。簡単な数個の質問に答えるだけという使いやすさが功を奏し、今では月間平均300万ユニーク・ユーザーの訪問を得るまでになっている。

 17年11月には大東エナジーが、18年6月には福島電力が小売り事業から撤退することが明らかになったが、ENECHANGEは迅速に特設サイトを開設するなどして対応に当たった結果、多い日には200件以上の問い合わせを受けたことが、今年1月の経過措置料金専門会合で報告された。消費者センターや消費者団体への問い合わせ件数をはるかに上回っており、小売り電気事業者に関する情報提供窓口として、既に消費者に頼られる存在になっているといえるだろう。

 また、大手エネルギー事業者のデジタル化を支援するソリューションも提供している。スマートメーターのデータと消費予測等の解析に基づいて、電力・ガスの料金シミュレーションを行ったり、それに切り替えの申し込み管理までを含む一連のサービスを大手エネルギー事業者に提供する事業は、同社のデータ解析技術に関する強みを生かすビジネスとして16~18年の売上高推移でみると年平均成長率150%成長を続けている。大手エネルギー事業者が各社でこうしたサービスの提供を行うには、コストの点で負担が大きい。こうしたソリューションの活用でコスト競争力を高めることにつながれば、消費者も自由化のメリットを享受しやすくなる。ENECHANGEも、エネルギー産業に関わる事業者のプラットフォームとしてのポジションを確立することにつながると期待される。
 

欧州や中東のエネルギーベンチャーと日本企業を結ぶマッチングも

 
 ベースとなるこれらの事業に加えて、筆者がENECHANGEに注目している理由は、同社が昨年から取り組むJapan Energy Challenge(以下、JEC)にある。
 これは、欧州や中東など諸外国のエネルギーベンチャーと日本の企業とを結ぶマッチングの場で、昨年に引き続き本年も夏のロンドンで開催された。JECについては本紙でも既に取り上げられていたので詳細は割愛するが、通常のアクセラレーター・プログラムでは、ともすると出会いの場をつくるだけで終わりがちなところ、事前に基礎的な調査や各社の意向確認を数カ月かけて行ったため、実際プログラムに参加する段階では協業に向けた具体的な議論が始められるようになっていた。昨年参加した日本企業のほとんどが今年も参加していることからも、このプログラムに対する期待の高さが感じられる。

 今年、約200社の中から選び抜いた19のスタートアップが招待されたが、この規模と質のプログラムを提供し続けることはロンドンにルーツを持ち、拠点を構える同社でなければ難しいだろう。運営の仕方や提供する価値はこれから変容していく可能性はあるが、日本のエネルギー市場におけるプレイヤーを増やす、あるいは日本企業がグローバルな市場に出ていくきっかけを提供するプログラムとしての意義は高く、継続されると期待したい。

 さらに、この場から複数のプロジェクトを誕生させるべく、日本の大手エネルギー企業と欧州のスタートアップ企業とのかけ橋になって、電気自動車の充電システムや次世代太陽光発電などの取り組みを推進している。

 データ解析という同社の強みとグローバルなネットワークによる案件発掘・組成力が今後、具体的な事業展開という形で発揮されると期待される。同社は既にベンチャーという言葉が当たらない規模に成長を遂げているが、その理由はデータ解析という強みとプラットフォームを提供するという役割意識がぶれないところにあるのだろう。

電気新聞2019年10月7日