デジタル化や分散化がエネルギー業界にもたらす変化への処方せんを求め、スタートアップの発掘競争が世界的に加速している。イノベーションで先行するのは海外勢だが、言葉や距離の壁がある日本企業との提携は一筋縄では進まない。今夏、ロンドンで欧州スタートアップと日本企業の協業機会を探る「Japan Energy Challenge(JEC)」を主催したENECHANGE(エネチェンジ、東京都千代田区、有田一平社長)の城口洋平会長と、東京ガスの門正之執行役員・デジタルイノベーション戦略部長が、イベントを振り返りつつ良縁をつかむ秘訣(ひけつ)を語り合った。(文中敬称略/司会=電気新聞・長岡 誠)

城口洋平氏
城口 洋平氏(きぐち・ようへい) 東京大学、ケンブリッジ大学卒業見込み。2015年に共同創業者としてエネチェンジを設立。翌16年にSMAPエナジーを設立し、CEOに就いた。17年に米経済誌フォーブスが選ぶ世界の若手起業家30人に選ばれた。17年6月より現職。

◇欧州トップクラス企業が魅力◇

 ――JECは今年で2回目になりました。あらためて振り返ると、どんな気付き、変化がありましたか。
門 この2年、多くのスタートアップと接する中で、私たち自身の心構えが大きく変わってきたと感じます。日本企業はスタートアップと付き合う際、「自分たちに必要なものを提供してもらう」という発想に陥りがちなのですが、それだけで良い関係を築くのは難しい。相手にも私たちと組む価値を見いだしてもらい、共に成長したいと考えるようになりました。
城口 門さんにはイベントのコンセプトを決める段階から、多くのアドバイスやヒントを頂きましたね。それを踏まえ、去年と今年で大きく変えた点が2つあります。一つは欧州トップクラスと呼べる企業を呼んだこと。エネルギー事業変革に向け、対等に組めるパートナーを探すという発想に立ち、企業選別のハードルを引き上げました。スタートアップと日本企業の1on1ミーティングの数や時間を拡大したのも、参加者から好評でした。
門 しっかりと準備して臨むミーティングは、時間がいくらあっても足りないというのが実感です。今回は若手にスタートアップの事前分析を担当してもらったのですが、彼らにとっても密度の濃い時間だったはず。得難い経験をさせてもらいました。

門正之氏
門 正之氏(かど・まさゆき) 1988年東京大学工学部卒業、東京ガス入社。技術研究所、総合企画部などを経て、都市ガスの小売り全面自由化がスタートした17年4月から2年間、IT本部デジタルビジネス推進部長として、ICT戦略を牽引した。18年4月より現職。

◇「社会貢献と成長」共有したい◇

 ――イベントで印象に残ったスタートアップは。
門 日本にそのまま技術を持ち込めるかというと難しい点もあるのですが、エッジング・ソーラー(メモ*1)でしょうか。太陽光発電が広がる中、新規ユーザーの心理的なハードルを下げるアプローチが面白いと感じました。
城口 事前分析から評価が高かった会社の一つですね。彼らは太陽光の見積もりからインストール、売電までの全過程をカバーし、誰でも使えるインターフェースを今すぐ提供できる。欧州各地でエンジーと協業してきた実績があり、自分たちのサービスで世界の脱炭素化に貢献するというストーリーをしっかり持っています。
門 まさにその点に魅力を感じました。私たちは単にスタートアップと組みたいのではなく、共に社会問題を解決したいのです。ビジネスである以上、収益性は重要ですが、それ以上に社会に貢献し、お客さまに喜んでもらう中で成長をどう実現するか。そこに至るストーリーを共有できるかが重要だと考えています。

◆メモ*1)エッジング・ソーラー
エッジング・ソーラー=本社はスペイン・マドリッド。太陽光の販売に関わる面倒な過程をデジタル化し、オール・イン・ワンのパッケージサービスとして提供する。建物ごとに違う屋根の高さを反映した発電量予測などを、誰でも使えるスマホアプリで実装する提案力が強み。

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